ポイント
- これまで、長距離反強磁性秩序を持つ準結晶の存在自体が疑問視されており、長年解明されていない謎となっていました。
- 本研究では、正二十面体準結晶Au56In28.5Eu15.5が反強磁性を示すことを実証しました。
- 本研究成果は、準周期的磁気秩序の本質的な特性を明らかにするだけでなく、その特異な磁気応答を利用した、スピントロニクス分野における革新的な応用研究への波及が期待されます。
東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科の田村 隆治 教授、同大学 大学院先進工学研究科 マテリアル創成工学専攻の阿部 宇希 氏(2024年度 修士課程2年)、東北大学 多元物質科学研究所の佐藤 卓 教授、Australian Nuclear Science and Technology Organisation(ANSTO)のMaxim Avdeev 教授らの共同研究グループは、正二十面体準結晶Au56In28.5Eu15.5が反強磁性を示すことを実証しました。
準結晶内では原子が規則的に配列した構造を形成していますが、その配列には周期性がないことが特徴です。1984年に準結晶が発見されて以来、準結晶における長距離磁気秩序の報告は全くありませんでした。2021年には、本研究グループが強磁性準結晶の合成に成功し、世界に大きな影響を与えました。しかし、反強磁性準結晶については、理論的にもその存在が可能か否か不明であり、長年の謎となっていました。そこで、本研究グループは反強磁性準結晶の存在を明らかにすべく、約半世紀にわたる難題に挑戦しました。
本研究では、粉末X線解析によりAu56In28.5Eu15.5がTsai型の正二十面体準結晶であることを明らかにしました。また、Au56In28.5Eu15.5の磁化測定の結果、ネール温度6.5ケルビン(マイナス266.65度)で鋭いカスプ(極大)が観察され、ネール温度以下ではメタ磁性転移が見られたことから、反強磁性転移が生じていることが示唆されました。さらに、粉末中性子回折により、ネール温度以下で磁気ブラッグ反射が観察され、反強磁性秩序の存在が立証されました。本研究成果は、物性物理学において反強磁性準結晶という新たな研究分野を切り開く重要な成果となります。
本研究成果は、2025年4月14日(現地時間)に国際学術誌「Nature Physics」にオンライン掲載されます。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(No.19H05817、19H05818、21H01044、22H00101、23KK0051)、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR22O3)による助成を受けて実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(459KB)
<論文タイトル>
- “Observation of antiferromagnetic order in a quasicrystal”
- DOI:10.1038/s41567-025-02858-0
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
田村 隆治(タムラ リュウジ)
東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科 教授
E-mail:tamurars.noda.tus.ac.jp
佐藤 卓(サトウ タク)
東北大学 多元物質科学研究所 スピン量子物性研究分野 教授
E-mail:takutohoku.ac.jp
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<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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