ポイント
- 対称性が異なる2種の分子の混合により、超分子層構造が形成されることを発見。
- 2種分子のペアの形成と層状液晶化が構造形成を安定化。
- 有機溶媒を必要としないグリーンな半導体デバイス製造技術の確立に期待。
東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻の二階堂 圭 助教、井上 悟 助教(研究当時、現所属:山形大学 有機エレクトロニクスイノベーションセンター 研究専任准教授)と長谷川 達生 教授らの研究グループは、アルキル基により対称/非対称に置換した2種の有機半導体分子の混合体を加熱し溶融すると、冷却の過程で液晶相を介して、2種の分子がペアを形成する高秩序化が促されることを見いだしました。この現象を利用し、溶媒を用いることなく有機半導体の高均質な塗布製膜に成功しました。
分子形状が変形しにくく剛直なπ電子骨格と、変形しやすいアルキル基を連結した有機半導体分子は、層状に自己組織化しやすい顕著な性質を示すことから、近年、新たなソフトマターエレクトロニクスの材料として注目されています。本研究では、棒状のπ電子骨格の両端をアルキル基で置換した中心対称な分子と、片側のみ置換した非対称な分子を1対1の比で混合すると、加熱による液晶化や層状化が起こりやすくなることを見いだしました。またその仕組みは、2種の分子がペアを作って並ぶことで得られる、π電子骨格層とアルキル層が多重積層した超分子層構造の形成に由来することを明らかにしました。そして、この超分子層構造が層状液晶相を介して得られることを活用し、人体や環境に有害な有機溶媒を用いることなく、高均質な有機半導体薄膜を塗布により製膜することに成功しました。
今回の発見はソフトマターが自発的に示す液晶相や結晶相などの多彩な凝集構造の解明とともに、これらを利用した環境負荷の低いグリーンな半導体デバイス製造技術の発展に寄与するものと期待されます。
本研究成果は、2025年4月5日(日本時間)に「Science Advances」に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「実験・計算・データ科学融合による塗布型電子材料の開発」(研究代表者:長谷川 達生、JPMJCR18J2)、JSPS 科研費 基盤研究A(JP21H04651)、特別研究員奨励費(JP24KJ0679)による支援を受けて行いました。また本研究の一部は文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号:JPMXP1224UT0171)の支援を受けて行いました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.09MB)
<論文タイトル>
- “Melt-mixed superlayer cocrystal formation using symmetric and unsymmetric organic semiconductors”
- DOI:10.1126/sciadv.adv1878
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
長谷川 達生(ハセガワ タツオ)
東京大学 大学院工学系研究科 教授
Tel:03-5841-6841
E-mail:t-hasegawaap.t.u-tokyo.ac.jp
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<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066
E-mail:crestjst.go.jp
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<報道担当>
東京大学 大学院工学系研究科 広報室
Tel:03-5841-0235
E-mail:kouhoupr.t.u-tokyo.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
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