ポイント
- 咳(せき)が8週間以上続く慢性咳嗽(がいそう)や嚥下(えんげ)障害には原因不明または難治症例が多く治療法が限られています。こうした現状から咳や嚥下の⽣理学的機序の理解不⾜が指摘されてきました。
- マウスを⽤いた実験で、喉の上⽪に希少に存在する感覚細胞群を発⾒し、これらの細胞が侵害化学物質に応答し、喉頭では咳、咽頭では嚥下を引き起こすこと、およびその細胞内分⼦メカニズムを解明しました。
- 咳や嚥下をつかさどる新規感覚器官の発⾒であり、苦味を呈する毒素を含む植物抽出物、タバコの煙、空気汚染物質、病原体関連物質など多様な侵害化学物質に対して⽣じるこれらの気道防御反射の機序が明らかとなりました。
- これら感覚器官がアレルギー性咳過敏症にも関与していることが分かり、慢性咳嗽創薬に道筋を⽰すことが期待されます。
- ⼀般に喉ごしと表現され、ビールを飲む際などに喉で知覚される感覚には苦味が重要ですが、その機序は分かっていません。苦味物質が嚥下を促進する機序を解明した本研究は、ビールの苦味が持つ喉ごし感覚の⼀端を説明するかもしれません。
京都府立医科大学 大学院医学研究科 細胞生理学 樽野 陽幸 教授らは、理化学研究所 生命医科学研究センター 応用ゲノム解析技術研究チーム 岡﨑 康司 チームリーダーらとの共同研究により、マウスを用いた実験で、苦味のある毒素を含む植物抽出物、タバコの煙、空気汚染物質、病原体関連物質など多様な侵害化学物質に対して生じる咳や嚥下を担う喉の感覚細胞を新たに発見しました。さらに、これらの細胞がアレルギー性の咳過敏症に関与することを明らかにしました。
本研究は、喉(咽頭および喉頭)に希少に存在する新規の感覚器官を発見しその機能を分子レベルで解明したもので、外界からの刺激に対する生体の応答機序の理解を前進させるものです。咳の症状が長期間続く慢性咳嗽は患者の生活の質を著しく損ないますが、原因不明または難治性の症例が多く見られます。本研究成果をもとに、今後、この咳の機序がヒトにも存在することが明らかになれば、慢性咳嗽の診断および治療法に新たな道筋を与えることが期待されます。
本件に関する論文は、科学雑誌「Cell」に2025年4月5日(日本時間)に掲載されます。
本研究は、以下の研究費の支援を受けて行われました。
樽野 陽幸
科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR21P3)
同さきがけ(JPMJPR1886)
日本学術振興会 科研費(23H00400/20K21505/20H04908/19H03819/16K15181)
ソルト・サイエンス研究助成(20C2)、内藤記念科学技術振興財団、武田科学振興財団、浦上食品・食文化振興財団
岡﨑 康司
日本医療研究開発機構(AMED) BINDS(JP20am0101102)
大野 伸彦
日本学術振興会 科研費(24H00583/JP22H04926/21H05241)
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.62MB)
<論文タイトル>
- “Channel synapse mediates neurotransmission of airway protective chemoreflexes”
- DOI:10.1016/j.cell.2025.03.007
<お問い合わせ先>
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