ポイント
- 火星全球気候モデルに浅部地下への水輸送過程を組み込み、有人探査に向けての重要な知見となる火星表層の水分布を推定しました。
- 塵(ちり)や砂などから成り火星の表層を覆う吸着性の高い堆積層(レゴリス)粒子が水を安定的に保持し、吸着係数の全球的なばらつきが地下水分布の不均一をもたらすことを示しました。
- レゴリスの吸着性が水の拡散速度を低下させることにより、火星の水の歴史において長期的な水の保持に寄与していることを示唆しました。
人類の到達を見据えた今後の火星探査において、利用可能な表層の水分布を把握することは非常に重要です。また、火星の水環境の形成を理解することは、火星がかつての温暖・湿潤な環境から現在の寒冷・乾燥な環境に至った変遷のメカニズムを解明する鍵となります。
東北大学 大学院理学研究科 地球物理学専攻の古林 未来 大学院生と黒田 剛史 助教らの研究グループは、火星全球気候モデル内にレゴリスの物理特性(ここでは吸着性など)が緯度によって不均一であることを考慮した地中水拡散モデルを新たに開発し、地下2メートルまでの水分布を推定しました。その結果、吸着性の高いレゴリスが豊富な吸着水を安定的に保持し、火星周回機で観測された水素分布は吸着係数の全球的なばらつきによって定性的に説明できることが示唆されました。さらに、中・高緯度においては、レゴリスの吸着性が氷を地表付近に保持する役割を果たすことを明らかにしました。本研究が示した吸着性の高いレゴリスが地中水蒸気の拡散速度を低減させる働きは、火星の水環境変遷における重要な要素であり、長期的な水の保持に寄与した可能性があります。
本研究成果は、2025年2月25日(現地時間)に科学誌「Journal of Geophysical Research:Planets」に掲載されました。
本研究は、JST 創発的研究支援事業(JPMJFR212U)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP19H00707、JP22H00164、JP23K13166、JP24KJ0435)、令和6年度地球シミュレータ公募課題、環境・地球科学国際共同大学院プログラム(GP-EES)の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “Large water inventory in a highly adsorptive regolith simulated with a Mars global climate model”
- DOI:10.1029/2024JE008697
<お問い合わせ先>
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黒田 剛史(クロダ タケシ)
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