奈良先端科学技術大学院大学,京都大学,科学技術振興機構(JST)

令和7年2月24日

奈良先端科学技術大学院大学
京都大学
科学技術振興機構(JST)

アブラナ目の生体防御を担う細胞の形成に気孔形成因子が転用されていた

~植物の特殊な機能を持つ細胞への進化の謎解明へ~

野菜の味の改変や二酸化炭素吸収能を高めた作物の開発に期待

奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑 一裕) 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域の白川 一 助教、山口 暢俊 准教授、伊藤 寿朗 教授、京都大学(総長:湊 長博) 大学院生命科学研究科 統合生命科学専攻の山岡 尚平 准教授、河内 孝之 教授らは、植物の葉の気孔を開閉する孔辺細胞と生体防御を担うミロシン細胞という2つの異なる機能に特殊化した細胞分化について、それぞれの細胞の遺伝子の発現に共通して関与する新規の転写因子であるWASABI MAKER(WSB)を同定することに成功しました。さらに、植物が進化の過程で形成してきた転写ネットワークの一部を転用することにより、同じWSBを使いながら、2種の特殊化した細胞を獲得するというネットワークの仕組みを明らかにしました。

植物が進化の過程で、動物細胞が持たない特殊化した細胞を獲得してきたことはよく知られていますが、その遺伝子発現の仕組みの変遷を突き止めるための分子メカニズムはほとんど知られていませんでした。研究グループは、植物のガス交換を担う気孔の「孔辺細胞」と、細胞が傷つくと生体防御のための辛み成分などの物質を生成する「ミロシン細胞」に着目しました。ミロシン細胞が作る辛み成分は植食性の昆虫や細菌に対して生体防御物質として働く一方で、マスタードやワサビの辛み成分としても知られています。本研究では、孔辺細胞とミロシン細胞の分化を担う転写ネットワークを同定し、それらがどのように進化したか解析しました。その結果、孔辺細胞を作るために植物が獲得した転写ネットワークの一部が転用されて、WSBを併用する形でミロシン細胞を作るための転写ネットワークが獲得されたことが分かりました。

今後、植物が多様に特殊化した細胞を作るようになった進化のメカニズムを明らかにするとともに、作物の辛み成分の量や質を改変する技術や二酸化炭素の取り込みを効果的に行う気孔を備えた植物を開発する技術へと発展することが期待されます。

本研究成果は、「Nature Plants」誌に2025年2月24日(月)(日本時間)に公開されます。

本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金、特別研究員奨励費(12J05453)、新学術領域研究・植物の周期と変調(20H05416、22H04723、22H04726、19H05670、19H05675)、学術変革領域B・天然物生物学(24H00881)、植物生殖改変(20H05780)、若手研究(18K14678)、基盤研究C(19K06723)、基盤研究B(22H02648、21H02511、18H02465、23H02503)、基盤研究A(JP20H00470、JP21K19266)、学術変革領域A・不均一環境と植物(21H05665、21H05663)、植物気候フィードバック(23H04968)、学術変革領域A・挑戦的両性花原理(22H05176)、科学技術振興機構(JST) さきがけ(JPMJPR22D3)、同 CREST(JPMJCR19S6)、セコム科学技術振興財団、武田科学振興財団、加藤記念バイオサイエンス振興財団、大隅基礎科学創生財団の支援を受けて行いました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Co-option and neofunctionalization of stomatal executors for defense against herbivores in Brassicales”
DOI:10.1038/s41477-025-01921-1

<お問い合わせ先>

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