東京大学,科学技術振興機構(JST)

令和7年2月15日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

開発コストを1/40に削減するAIプロセッサーの新方式を開発

~新規に必要なフォトマスクは1枚のみ、低コストと低電力動作を両立~

ポイント

東京大学 大学院工学系研究科の小菅 敦丈 講師、Jaewon Shin(ジェウォン・シン) 大学院生、濱田 基嗣 特任教授らによる研究グループは、低い開発コストと低電力性能を両立した新規ストラクチャードASIC型AIプロセッサーを開発しました。半導体製造において大部分を占めるフォトマスクの開発コストを1/40に削減しつつ、既存の低電力性能に特化したAIプロセッサーと同等の電力効率で処理できます。ウェアラブルIoT応用におけるバイタル信号解析や音声認識に好適です。

スマートウォッチやAR/VR機器においてAI機能を搭載することで、高度なバイタル解析によるQOLの向上や機器操作性の向上によりユーザーエクスペリエンスの向上が期待されています。一方、こうしたIoT機器は小型軽量動作を追求するためバッテリー駆動であり、かつ安価であることが求められます。これまで低電力動作を追求するためAIプロセッサーが世界中で研究開発されていますが、いずれもフォトマスク開発にかかる10億円単位の開発コストが高い障壁となりIoTデバイスへの採用が困難でした。低電力性能を追求するほどタスクに特化するため汎用性がなくなり、半導体の設計データであるフォトマスクを使い回すことができなくなります。フォトマスクの開発製造は非常に高額であり、この開発コストを回収するためにはチップ単価が極めて高額になることから、安価なデバイスの実現が難しいという問題がありました。

本研究では低電力動作と低コストを両立するため、ストラクチャードASIC方式の新規AIプロセッサーを開発しました。演算回路と配線をあらかじめ実装したチップを上層配線の途中まで製造しておき、VIA1層のみで特定のAI処理に応じたAIプロセッサー回路を構成するビアプログラマブルニューロンアレー(Via-programmable Neuron Array)技術を開発しました。AIプロセッサーの製造に必要なフォトマスク枚数を“VIA層”1枚に減らし低コスト化を実現しました。実現にあたっての技術課題は巨大な実装面積です。深層ニューラルネットワークを布線論理方式で実装するため、実装する信号配線が膨大になり広大なチップ面積が必要となっていました。従来方式では半導体集積回路として製造可能な限界面積を大幅に超過していたため、実現できませんでした。そこで研究チームは新たに回路と信号配線を時分割で再利用し回路面積を削減する、ビットニューロン順次回路技術を開発しました。さらに深層ニューラルネットワークの重み係数を16ビット(65,536種類)から3値(+1、-1、0の3種類)に削減しながらも精度を保つ、関数選択的非線形ニューラルネットワーク(Function-Selective Non-linear Neural Network、FS-NNN)技術も開発しました。重み係数を16ビットから3値にすることで必要な信号配線本数を削減しています。これらの技術を組み合わせた結果、信号配線本数を1/1024に削減し省面積化を実現、10平方ミリメートル以下とIoT用途として十分小さな回路面積でストラクチャードASICによるAI機能実装に成功しました。ウェアラブルIoT機器のみならず、ドローン、自動車内エンタメ機器制御、AR/VR機器への応用が期待されます。

本研究成果は、2025年2月18日(米国太平洋時間)に、半導体集積回路分野で世界最高峰の国際会議である「International Solid-State Circuits Conference(ISSCC)」にて口頭発表されます。

本研究成果は、主として、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)(課題番号:JPMJPR21B4)

「情報担体とその集積のための材料・デバイス・システム」(研究総括:若林 整 東京科学大学 総合研究院 教授)
「デバイス・システム協調による超低電圧布線論理型AIプロセッサ」
小菅 敦丈(東京大学 大学院工学系研究科 講師)

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“A Via-Programmable DNN-Processor Fabrication Toward 1/40th Mask Cost”

<お問い合わせ先>

(英文)“Development of a new AI processor architecture that reduces development costs by 1/40”

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