ポイント
- 社会的ひきこもり状態(ひきこもり)は、報道などで紹介される政府調査で用いられる基準と、精神医学領域で提案されている基準とで、異なる定義が使われています。本研究では、茨城県笠間市の住民調査から、それぞれの定義に基づく対象集団の重なりは少なく、有病率も異なることを見いだしました。
近年、社会的ひきこもり状態(ひきこもり)への支援の必要性が高まっていますが、ひきこもりをどのような特徴で定義するかについて、これまでほとんど議論されてきませんでした。
本研究では、政府による全国調査において一般的に用いられる社会的ひきこもりの基準、および最近提案された精神科のひきこもりの基準(病的ひきこもり、非病的ひきこもり)の両基準を用いて、各基準を満たすグループを定義し、グループ間の重複と相違を明らかにするための調査を行いました。具体的には、2024年2月から1ヵ月間、茨城県笠間市の住民を対象にアンケート調査を実施し、回答者が2つの基準にそれぞれ当てはまるかを調べ、政府調査基準の「社会的ひきこもり」、精神科基準の「病的ひきこもり」「非病的ひきこもり」の各グループの異同を分析しました。その結果、各グループの間にはそれぞれ重複があるものの、グループの違いも大きいことが明らかになりました。
また、これまでの市町村の調査では、政府調査とは異なるひきこもりの定義が用いられているケースも多く、定義や母集団の特徴の違いが理解されなければ、ひきこもりに対して誤った理解が生じる可能性があり、調査結果の解釈や比較に注意が必要なことが分かりました。ひきこもりへの支援に当たっては、用いている基準を意識すること、ひきこもりを過度に医療化せず、精神保健福祉のさまざまな立場から多角的な評価を行うことが重要と考えられます。
本研究成果は、2025年2月7日付(現地時間)で、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載されます。
本研究は、JST 社会技術研究開発センター(RISTEX) 社会技術研究開発事業「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築)」の研究開発プロジェクト「社会的孤立の生成プロセス解明と介入法開発:健康な「個立」を目指して」(研究代表者:太刀川 弘和(筑波大学 医学医療系 教授)、研究開発期間:2021年11月~2026年3月)(JPMJRX21K2)の一環として実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.2MB)
<論文タイトル>
- “The hikikomori population varies significantly depending on the definition used: Evidence from a survey in Kasama, Ibaraki, Japan.”
- DOI:10.1111/pcn.13783
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
太刀川 弘和(タチカワ ヒロカズ)
筑波大学 医学医療系 臨床医学域 災害・地域精神医学 教授
Tel:029-853-3343
E-mail:tachikawamd.tsukuba.ac.jp
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<JST事業に関すること>
長田 直樹(ナガタ ナオキ)
科学技術振興機構 社会技術研究開発センター 企画運営室
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-0133 Fax:03-5214-0140
E-mail:koritsu-infojst.go.jp
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<報道担当>
筑波大学 広報局
Tel:029-853-2040
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茨城県立こころの医療センター 事務局
Tel:0296-77-1151
E-mail:hi-hiranuma-psyhospital.pref.ibaraki.jp
東洋学園大学 広報室
Tel:03-3811-1783
E-mail:kohoof.tyg.jp
科学技術振興機構 広報課
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