ポイント
- 温和な条件下(180度、常圧水素)でエポキシ樹脂の加水素分解を可能にする酸化セリウム担持ニッケル-パラジウム2元金属触媒を開発した。
- 本触媒を用いることにより、繊維強化プラスチックから繊維とビスフェノールAなどのエポキシ樹脂モノマーを回収できる可能性を見いだした。
- 繊維強化プラスチックは航空機、風力タービンブレード、自動車など、幅広い分野に応用されていることから、本触媒系の研究開発を加速させることで、将来的に、これら廃エポキシ樹脂複合材の分解とリサイクルへの応用が期待される。
東京大学 大学院工学系研究科の金 雄杰(キン・ユウケツ) 准教授と野崎 京子 教授らは、東京都立大学 大学院都市環境科学研究科の宍戸 哲也 教授の研究グループとの共同研究により、温和な条件下でエポキシ樹脂の加水素分解を可能にする固体触媒を開発しました。本触媒系を用いることで、繊維強化プラスチックを繊維と樹脂モノマー、例えばビスフェノールA(BPA)に分解することにも成功しました。繊維強化プラスチックを分解するためには、その構成成分であるエポキシ樹脂の分解が鍵となりますが、一般的に高温(例えば500度以上)あるいは強酸・強塩基条件を必要とすることから、繊維と樹脂モノマーを同時に回収することは困難でした。また、近年、均一系触媒を用いたエポキシ樹脂の加水素分解法が開発されていますが、触媒の回収および再使用が難しいことが問題でした。今回開発した酸化セリウム担持ニッケル-パラジウム2元金属触媒(Ni-Pd/CeO2)を用いると、N-メチルピロリドン(NMP)溶媒中、180度、常圧水素下でエポキシ樹脂の加水素分解が進行し、BPA(もしくはフェノール類)を高い収率で回収できました。また、Ni-Pd/CeO2は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、およびガラスエポキシ基板の分解にも適用可能であり、繊維とフェノール類の回収に成功しました。さらに、触媒も容易に回収することができ、触媒性能を保ったまま数回再使用できることも分かりました。
繊維強化プラスチックを始めとするエポキシ樹脂複合材は、航空機、風力タービンブレード、自動車など、幅広い分野で利用されています。本触媒系の研究開発を加速させることで、将来的に、廃エポキシ樹脂複合材の分解とリサイクルへの応用が期待されます。
本研究成果は、2025年2月6日(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載される予定です。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ERATO「野崎樹脂分解触媒プロジェクト(課題番号:JPMJER2103)」(研究総括:野崎 京子)、日本学術振興会 科学研究費助成事業 学術研究助成基金助成金(課題番号:JP24K01253)、および科学研究費補助金 学術変革領域研究(A)「炭素資源変換を革新するグリーン触媒科学」(課題番号:JP23H04905)の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(726KB)
<論文タイトル>
- “Bimetallic synergy in supported Ni-Pd catalyst for selective hydrogenolysis of C-O bonds in epoxy resins”
- DOI:10.1038/s41467-025-56488-4
<お問い合わせ先>
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野崎 京子(ノザキ キョウコ)
東京大学 大学院工学系研究科 教授
Tel:03-5841-7261
E-mail:nozakichembio.t.u-tokyo.ac.jp
金 雄杰(キン・ユウケツ)
東京大学 大学院工学系研究科 准教授
Tel:03-5841-7264
E-mail:t-jing.ecc.u-tokyo.ac.jp
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<JST事業に関すること>
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科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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<報道担当>
東京大学 大学院工学系研究科 広報室
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