ポイント
- キイロショウジョウバエを宿主とする寄生蜂ニホンアソバラコマユバチの巧みな生存戦略を支える毒遺伝子の同定に成功しました。この毒遺伝子から作られるたんぱく質は、ハエが成虫になるために必要な成虫組織を殺すことで、宿主個体は生かしたまま宿主体内のハチの成長を助け、寄生を成功に導きます。
寄生蜂とは、主に昆虫やクモの栄養を一方的に奪って生活するハチ目の昆虫です。寄生蜂の種類は膨大であり、現在の地球上で最も繁栄している生物である昆虫類約100万種の中の約20パーセントを占めるとも推定され、地球上で最も成功した戦略を持つ動物群の1つです。この繁栄とユニークな生活戦略ゆえに、古くから多くの学者たちが、寄生蜂がどのようにして己の宿主の体を乗っ取って貪(むさぼ)り尽くしてしまうのかを問う研究に取り組んできました。しかし、個体の小ささや飼育の困難さのため、寄生を支える分子機構には未だ不明な点が多く残されています。
本研究グループは、モデル生物であるキイロショウジョウバエを宿主とする寄生蜂ニホンアソバラコマユバチの飼い殺し型寄生に着目し、毒遺伝子IDDF(成虫原基縮退因子)の同定に成功しました。IDDFは、宿主ハエ幼虫体内の成虫原基(将来の成虫組織)を選択的に縮退させるのに必須です。宿主ハエを幼虫からサナギまで生かしつつ成虫になるのを防ぐ(飼い殺す)ことで、ハチの寄生を成功に導きます。
本研究成果は、寄生蜂の巧みな生存戦略の分子機構の一端を明らかにするとともに、寄生蜂毒が新しい生物毒の候補として研究対象となる可能性を見いだしたものです。今後、さまざまな昆虫を標的とする寄生蜂毒の作用メカニズムを調べることで、農薬や天然医薬資源のシーズとして活用できると期待されます。
本研究成果は、2025年1月29日付(現地時間)で「Science Advances」に掲載されます。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)「内部寄生蜂が宿主ショウジョウバエ幼虫に誘導する組織特異的細胞死シグナル経路の解析」(18K05670)、同 若手研究「寄生蜂の寄生成立の可否を決定づける分子基盤の解明」(23K13960)、同 特別研究員奨励費「寄生蜂の飼い殺し型寄生を司る組織選択的アポトーシス誘導因子の同定と作用機序の解明」(21J10894)、文部科学省 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)計画研究「飼い殺し型寄生蜂の毒による巧みな発生操作の分子基盤」(24H02297)、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業「寄生蜂毒研究に基づく上皮選択的な細胞死誘導の解明」(JPMJFR2263)、同 さきがけ「宿主内環境を支配する寄生蜂由来生体微粒子の機能解析」(JPMJPR19H6)、大隅基礎科学創成財団 研究助成(2022~2025年度)の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.13MB)
<論文タイトル>
- “Parasitoid wasp venoms degrade Drosophila imaginal discs for successful parasitism”
- DOI:10.1126/sciadv.adq8771
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