ポイント
- ポリマーの液-液相分離を利用して、人工細胞内に「細胞核」に相当する区画構造を構築することに成功。
- 人工細胞の「細胞核」でのmRNA合成(転写)と人工細胞の「細胞質」でのたんぱく質合成を空間的に分離することに成功。
- 生命システムの理解や、効率的なたんぱく質合成および物質生産への応用が期待される。
東京大学 大学院工学系研究科の友原 貫志 大学院生(研究当時)、皆川 慶嘉 助教、野地 博行 教授らの研究グループは、人工細胞の中に「細胞核」に相当する区画構造を構築し、遺伝情報の転写とたんぱく質合成を空間的に分離して再現することに成功しました。生命の最小単位である細胞を人工的に構築する試みは、生命システムの理解や有用物質生産への応用を目指して世界中で研究が進められています。特に、真核生物の特徴である細胞核の区画化は、遺伝情報の発現を精密に制御する上で重要な役割を果たしていますが、これまでの人工細胞研究では十分に再現できていませんでした。本研究では、天然変性たんぱく質および2種類の合成ポリマーの液-液相分離を組み合わせることで、この問題を解決し、細胞核の内部での遺伝情報の転写と外部でのたんぱく質合成を空間的に分離することに成功しました。
この成果は、生命システムの基本原理や生命の起源の理解に新しい知見を提供するとともに、産業用酵素や医薬品の開発といった応用的展開も期待されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「長鎖DNA合成と自律型人工細胞創出のための人工細胞リアクタシステム」研究領域(No.JPMJCR19S4)、同 GteX「超並列たんぱくプリンタシステムの開発」研究領域(No.JPMJGX23B1)、同 ASPIRE「日英共同による人工光合成細胞システム開発」(No.JPMJAP24B5)、科研費「基盤S(No.JP19H05624)」の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(433KB)
<論文タイトル>
- “Artificial cells with all-aqueous droplet-in-droplet structures for spatially separated transcription and translation”
- DOI:10.1038/s41467-024-55366-9
<お問い合わせ先>
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東京大学 大学院工学系研究科 教授
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