京都大学,科学技術振興機構(JST)

令和7年1月20日

京都大学
科学技術振興機構(JST)

鉄原子を集めてナノサイズにした分子の合成に成功

~クラスター化学の未踏領域探索に向けた第一歩~

京都大学 化学研究所 大木 靖弘 教授、田中 奏多 大学院生、伊豆 仁 助教、檜垣 達也 助教(研究当時、現:東京大学 生産技術研究所)らは、名古屋大学 唯 美津木 教授、大石 峻也 大学院生、川本 晃希 大学院生、ヨーテボリ大学 W.M.C.Sameera 研究員、京都大学 寺西 利治 教授、髙畑 遼 助教、東京都立大学 山添 誠司 教授、吉川 聡一 助教、筑波大学 二瓶 雅之 教授、志賀 拓也 准教授、京都大学 加藤 立久 研究員、ハワイ大学 Roger E.Cramer 教授、フリードリヒ・アレクサンダー大学 エアランゲン=ニュルンベルク校 Karsten Meyer 教授、Zihan Zhang 大学院生と共同で、55個の鉄原子をナノメートルサイズ(1.2ナノメートル径)の正二十面体型に配列した分子を、世界で初めて合成しました。

安定で不活性ガスとも呼ばれる窒素や二酸化炭素を他の物質へ変換する反応は、困難ですが生命活動に欠かせません。自然界の窒素固定(Nの還元反応)では、たんぱく質に存在し多数の鉄と硫黄原子を含むクラスター錯体が酵素反応を触媒し、また人工的な窒素固定法であるハーバー・ボッシュ法では、金属鉄が触媒として用いられます。2つの窒素固定反応は一見無関係そうですが、複数の鉄原子(元素記号:Fe)を用いることと、複数の水素原子(元素記号:H)が鉄を架橋することが共通しています。これらの共通項を分子として具現化すれば、従来は困難であった物質変換を可能にする、次世代の触媒になる可能性があります。しかし、大きさや構造が一義的に決まる分子として鉄原子を配列することは難しく、従来は最大でも10個程度の鉄原子からなるクラスター錯体に合成例が限られていました。

本研究では、55個の鉄原子を1.2ナノメートル径の正二十面体型に配列し、表面を多数の水素原子(ヒドリド)が架橋したナノサイズの鉄ヒドリドクラスター錯体を、12箇所存在する頂点に適切なホスフィン配位子を配置することで合成しました。ナノサイズの鉄クラスター錯体は、多くの合成化学者が挑戦を続けつつも未達であった“夢の化合物”であり、その詳細な性質は長年謎に包まれてきました。本研究の結果は、ナノメートル領域における鉄の反応性や性質を明らかにし、既存の物質化学・材料化学を凌駕(りょうが)するための第一歩に位置付けられます。

本成果は、2025年1月20日(現地時刻)に、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されます。

本研究は、以下の研究プロジェクトの助成を受けて推進しました。

JST 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR21B1、JPMJCR21B4)、JSPS 科学研究費補助金(23H01974、22K20558、23K13707、23K13763、24H00053、24H02217)、矢崎科学技術振興記念財団、徳山科学技術振興財団、京都大学 化学研究所 国際共同利用・共同研究拠点補助金、京都大学 化学研究所らしい融合的・開拓的研究、フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルク校

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“An Icosahedral 55-Atom Iron Hydride Cluster Protected by Tri-tert-butylphosphines”
DOI:10.1021/jacs.4c12759

<お問い合わせ先>

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