NIMS(物質・材料研究機構),科学技術振興機構(JST)

令和7年1月8日

NIMS(物質・材料研究機構)
科学技術振興機構(JST)

グリーン水素製造の新たな鍵:電極触媒の真価を見える化する新手法

~局所酸性度が性能に影響、新規触媒材料の開発加速に期待~

NIMSは、電極界面における局所的な酸性度(pH)変化を高精度で観測し、その変化が電極触媒活性(特に酸素発生反応)に及ぼす影響を正確に評価する計測手法を提示しました。これにより、異なる酸性度条件下で得られた触媒活性データを統一的な基準で比較でき、水電解装置の効率化や二酸化炭素(CO)排出削減を通じて持続可能なエネルギー社会の実現に貢献することが期待されます。

再生可能エネルギー由来の電力で水を分解して得られる「グリーン水素」は、COを出発物質とする化学工業品の生産など、持続可能な化学物質生成技術の中核として注目を集めています。2024年には水電解装置の設備投資額が50億米ドルに達する見通しで、今後さらなる需要増が見込まれます。従来の触媒材料には高価で資源制約のある白金族元素が使われており、鉄や亜鉛など汎用元素を活用した安価で高性能な触媒材料を創出することが供給拡大には急務です。一方、触媒の性能は電極界面近傍での酸性度に大きく影響を受けることが知られていますが、局所的な酸性度の測定方法が確立しておらず、その機構は十分に解明されていません。特に、中性条件下での触媒反応は、水電解のみならず、CO還元によるメタノール合成や窒素還元によるアンモニア合成など、多岐にわたる電解反応に有利ですが、中性条件では電極界面近傍の酸性度が大きく変動するため、電極界面での局所的な酸性度変化を正確に把握し、その知見に基づく計測・評価手法の確立が求められています。

本研究では、安定性と評価性に優れたイリジウム酸化物をモデル触媒として採用し、回転リング-ディスク電極法を用いて中性条件下における局所酸性度変動を精密に計測しました。その結果、局所酸性度変化の微視的機構を明らかにし、それが酸素発生反応の活性に大きく影響を与えることを示しました。さらに、得られた知見に基づき「局所酸性度補正手法」を示し、これにより異なる条件下での触媒活性を同一基準で正確に比較できることを実証しました。また、これまで困難であった電極界面反応場の詳細な解析が可能となり、局所的な反応環境を的確に反映した新たな評価基盤が確立されました。

この成果は、高価な白金族元素に依存しない次世代型電極触媒の評価と設計を加速します。また、水電解にとどまらず、CO還元や窒素還元など中性条件が有利な電解反応への応用も期待されます。これにより、グリーン水素製造や持続可能な化学産業の高度化に向けた具体的な貢献が見込まれます。

本研究成果は、2025年1月7日にドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載されました。

本研究は、JSTの「GteX(革新的GX技術創出事業) JPMJGX23H2」の支援を受けて行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Deciphering pH Mismatching at the Electrified Electrode-Electrolyte Interface towards Understanding Intrinsic Water Molecule Oxidation Kinetics”
DOI:10.1002/anie.202419823

<お問い合わせ先>

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