ポイント
- 一酸化窒素(NO)高発現造血幹細胞(NOhiHSC)は、定常状態では休眠状態を維持し、免疫細胞からの攻撃を回避し、移植時には長期にわたる強固な再生能力を示すことを発見した。
- 骨髄3次元イメージング技術によりNOhiHSCが骨末端部に多く存在することを解明した。
- 骨末端部に多く存在する血管内皮が、血流シアストレスによって誘導される免疫制御分子CD200を介して造血幹細胞のNO発現と幹細胞性を維持していた。
以上より、血管は単なる血液が流れる“道”ではなく、幹細胞や炎症細胞を制御する組織への“扉”であることが示され、新たな再生・免疫抑制・炎症制御への治療応用の可能性が示唆された。
幹細胞は再生能力の維持に適した生息場所(幹細胞ニッチ)に存在することが、概念上の考えとして知られていました。しかし、異なる幹細胞ニッチが、そこに存在する幹細胞の再生能力に違いを形成し、さらに免疫細胞からの攻撃を回避する能力(免疫寛容)を制御しているのかどうかについては不明でした。
名古屋大学 大学院医学系研究科 腎臓内科学の古橋 和拡 講師、丸山 彰一 教授とコロンビア大学の垣内 美和子 ポストドクター、ハーバード大学 上田 亮介 ポストドクター、ハーバード大学 藤崎 譲士 准教授の共同研究により、造血幹細胞の中で最も再生能力の高い幹細胞は主としてヘアピン構造状の血管が多い骨末端部に存在し、一酸化窒素(NO)が高発現することを発見しました。このNO高発現造血幹細胞(NOhiHSC)は、定常状態では休眠を維持し、移植時には高い再生能を示します。そしてこの細胞は、シアストレスが強くかかる毛細血管叢(けっかんそう)に存在し、同部位の血管内皮細胞上にCD200が高発現することを骨髄3次元イメージングにより世界で初めて証明しました。同部位の分子学的解析を進め、シアストレスセンサーである一次繊毛たんぱく質IFT20刺激が血管にCD200を含めた免疫制御分子の高発現を誘導し、免疫細胞からの攻撃を回避できる部位(免疫特権部位)を形成することを明らかにしました。さらに、CD200高発現血管に隣接するNOhiHSCではCD200レセプターを介したNO産生からオートファジーが亢進し、移植時の高い再生能力と定常状態での休眠状態が維持されることを発見しました。また、免疫分子CD200を介して骨髄3次元イメージングで幹細胞ニッチを可視化することで、幹細胞ニッチという概念を実体化することに成功しました。本研究では、幹細胞ニッチにおける個別の機能として考えられていた免疫特権と幹細胞ヒエラルキーの維持が免疫制御分子CD200を介して連結されることを分子レベルで明らかにしました。
本研究での発見は、血管・血管周囲細胞を制御することで、組織幹細胞の制御から組織再生へ発展する基盤となるものです。また、がん組織にも同様のがん幹細胞が存在し、血管に囲まれていることから、がんの上流細胞から根治する新たな治療へも応用できる可能性があります。さらに、シアストレスが強い血管において免疫制御分子の増強が局所の炎症制御・組織恒常性の維持に関わっていることから、新たな免疫抑制・炎症制御・組織再生への治療法開発につながることも期待できます。
本研究成果は、2025年1月1日付「Nature」にオンライン掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業(JPMJFR200W)、偕行会医学基金、アメリカ国立衛生研究所 NIH R01の支援を受けて行いました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.05MB)
<論文タイトル>
- “Bone marrow niches orchestrate stem cell hierarchy and immune tolerance”
- DOI:10.1038/s41586-024-08352-6
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