ポイント
- 不規則な明暗環境での体内時計の乱れやすさが性別によりどのように異なるか不明だった
- メスの体内時計はオスよりも乱れやすく、体内時計が調節する体重および糖耐性への影響にも顕著な性差があることを、雌雄のマウスを用いた実験により発見
- 生活が不規則になりがちなシフトワーカーや現代人の健康管理に向けて、性差を考慮した適切な対処法の開発に期待
ヒトの体には、約24時間周期で刻まれる体内時計が備わっており、睡眠・覚醒状態や生理活動などの日内変動が制御されています。不規則な明暗環境により体内時計が乱れると、肥満や糖尿病などの疾病リスクが高まることが知られています。しかし、ヒトでは食生活や運動習慣、遺伝的要因などが多様であるため、明暗環境が体内時計に及ぼす影響を明らかにするためには、飼育環境や遺伝的背景を統一した動物実験が必要です。従来、体内時計の乱れやすさや、肥満・糖尿病の原因となる代謝異常との関連を探る動物実験では、主にオスの動物のみが用いられており、メスの動物を用いた研究はほとんどありませんでした。このため、性別による体内時計の乱れやすさの違いとその原因は不明でした。
九州大学 大学院農学研究院の安尾 しのぶ 教授、池上 啓介 准教授らの研究グループは、頻繁に明暗周期をずらして長期的にマウスの時差ぼけ状態を誘導する「慢性的時差ぼけ条件」において、メスの体内時計がオスよりも乱れやすいことを発見しました。また、オスでは当該条件で過剰な体重増加や耐糖能異常が生じる一方で、メスでは体重減少が見られるなど、性別により代謝異常の現れ方が大きく異なりました。さらに、精巣を摘出したオスでは、メスのように体内時計が時差ぼけに対して乱れやすくなり、テストステロンを投与すると強靭(きょうじん)性が回復したことから、テストステロンがオス特有の慢性的時差ぼけ反応の鍵であることが解明されました。
本研究成果は、不規則な生活になりがちであるシフトワーカーや夜ふかし習慣のある人などの健康管理において、性差を考慮する重要性を示しています。今後は、体内時計の乱れの性差に基づいた適切な対処法の開発が期待されます。
本研究成果は、英国の雑誌「Biology of Sex Differences」に2024年12月5日(木)(日本時間)に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業(JPMJFR201D)の支援、および中国奨学金の支援(T.M., 202106300004)を受けて実施したものです。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.29MB)
<論文タイトル>
- “Sex-dependent effects of chronic jet lag on circadian rhythm and metabolism in mice”
- DOI:10.1186/s13293-024-00679-z
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