ポイント
- 従来の面直磁場によるホール効果とは異なる、面内磁場によるホール効果を発見
- 軌道磁化がスピン磁化と独立に誘起されていることを実証
- ホール効果の理解の深化や、軌道磁化に基づく電子物性の開拓を進めるとともに、新たなデバイス応用の可能性を広げると期待
東京科学大学(Science Tokyo) 理学院 物理学系の打田 正輝 准教授の研究グループは、同大学 理学院 物理学系の石塚 大晃 准教授の研究グループと共同で、面直磁場による従来のホール効果とは異なる、面内磁場によるホール効果を発見しました。磁性ワイル半金属薄膜の電気伝導を測定することで、面内磁場による大きな異常ホール効果を観測し、この効果において、軌道磁化がスピン磁化と独立に誘起されていることを見いだしました。
ホール効果は、1世紀以上にわたり電子の伝導状態の研究やデバイス応用の基盤となってきました。これまでホール効果は面直磁場にのみにより引き起こされるものとされていましたが、本研究では、理想的な磁性ワイル半金属であるEuCd2Sb2の薄膜に着目し、精密な電気伝導測定を行うことで、面内磁場による異常ホール効果を実証しました。面内磁場を印加しながらEuCd2Sb2薄膜のホール抵抗を測定したところ、異常ホール角が0.4パーセントに達する大きな面内異常ホール効果が観測され、面内磁場の角度に対して明瞭な3回回転対称性を示すことが分かりました。この効果は、面内磁場によって磁性ワイル半金属のワイル点が面直方向にも分裂し、電子の波束の回転運動に相当する軌道磁化が誘起されることを示しています。今回の発見は、ホール効果に関する従来の常識を覆すものであり、軌道磁化に基づいた電子物性の開拓を進めるとともに、新しい磁場センサーなどとしてのデバイス応用の可能性を広げると期待されます。
本研究成果は、米国物理学会誌「Physical Review Letters」のEditors’ Suggestionに選ばれ、2024年12月3日(米国東部時間)にオンライン掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR202N)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP22K18967、JP22H04471、JP21H01804、JP22H04501、JP22K20353、JP23K13666)、大隅良典基礎研究支援のもと実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(987KB)
<論文タイトル>
- “In-Plane Anomalous Hall Effect Associated with Orbital Magnetization: Measurements of Low-Carrier Density Films of a Magnetic Weyl Semimetal”
- DOI:10.1103/PhysRevLett.133.236602
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
打田 正輝(ウチダ マサキ)
東京科学大学 理学院 物理学系 准教授
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