ポイント
- 非古典性の高い光量子状態の生成は確率的であり、この生成レートは論理量子ビットの生成も含め、光量子コンピューターの現実的な計算速度を制限する。
- 今回の成果では、光通信技術の増幅器・測定器の技術を用いて、従来の量子光源・測定器による速度の制限を打破し、光量子状態の生成レートを1000倍程度向上させた。
- 本研究では光子検出器の性能が生成レートを制限していたが、この制約を解決できれば、本研究からさらに1000倍の生成レートの実現が見込まれる。これにより準決定論的な状態生成が可能になり、超高速光量子コンピューターの実現が期待される。
東京大学 大学院工学系研究科の川﨑 彬斗 大学院生およびアサバナント ワリット 助教、古澤 明 教授らの研究チーム、マサチューセッツ大学のラジュヴィー ネハラ 助教授、日本電信電話株式会社(以下、NTT)、情報通信研究機構(以下、NICT)、理化学研究所は、シュレディンガーの猫状態と呼ばれる強い量子性(非古典性)を持つ光量子状態の生成レートを、従来手法より1000倍程度高速化することに成功しました。
誤り耐性型光量子コンピューターを実現するためには、誤りを検知し訂正するための論理量子ビットが必要不可欠です。直近では、光パルスを用いた論理量子ビット生成の実証実験に成功し、誤り耐性型光量子コンピューターの実現への道筋が示されました。しかしながら、実証実験レベルから実用レベルへ移行するためには、その論理量子ビットの生成確率を上げる必要があります。例えば、現在広く用いられている古典コンピューターのクロックレートはギガヘルツ(1秒に10億回)の水準に達する一方で、高い非古典性を持つ光量子状態の生成手法は基本的に確率的であり、その生成レートはキロヘルツ(1秒に1000回)程度に留まっていました。
本研究は従来の状態生成・測定のための量子光源・ホモダイン測定器(HD)の代わりに、NTTが主体となり開発した光パラメトリック増幅器(OPA)および東京大学とNICTが共同開発した超伝導光子検出器を用いることで、光源および測定の周波数帯域を大幅に向上させました。これによりシュレディンガーの猫状態をメガヘルツ(1秒に100万回)の生成レートで実現しました。この方法をさらに発展させればギガヘルツの生成レートの実現も見込まれ、実用レベルの生成レートを有した論理量子ビット生成の実現が期待されます。
本成果は、2024年11月1日(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」に公開されます。
本研究は、科学技術振興機構 ムーンショット型研究開発事業 ムーンショット目標6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」(プログラムディレクター:北川 勝浩 大阪大学 量子情報・量子生命研究センター センター長)研究開発プロジェクト「誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの研究開発(JPMJMS2064)」(プロジェクトマネージャー(PM):古澤 明 東京大学 大学院工学系研究科 教授)、「ネットワーク型量子コンピュータによる量子サイバースペース(JPMJMS2066)」(PM:山本 俊 大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授/量子情報・量子生命研究センター 教授)による支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(571KB)
<論文タイトル>
- “Broadband generation and tomography of non-Gaussian states for ultra-fast optical quantum processors”
- DOI:10.1038/s41467-024-53408-w
<お問い合わせ先>
-
<研究に関すること>
アサバナント ワリット
東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 助教
Tel:03-5841-6842 Fax:03-5841-6857
E-mail:waritap.t.u-tokyo.ac.jp -
<JST事業に関すること>
櫻間 宣行(サクラマ ノリユキ)
科学技術振興機構 ムーンショット型研究開発事業部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-5214-8419 Fax:03-5214-8427
E-mail:moonshot-infojst.go.jp -
<報道担当>
東京大学 大学院工学系研究科 広報室
Tel:03-5841-0235 Fax:03-5841-0529
E-mail:kouhoupr.t.u-tokyo.ac.jp日本電信電話株式会社 先端技術総合研究所 広報担当
E-mail:nttrd-prml.ntt.com
情報通信研究機構 広報部 報道室
E-mail:publicitynict.go.jp
理化学研究所 広報室 報道担当
Tel:050-3495-0247
E-mail:ex-pressml.riken.jp科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:jstkohojst.go.jp