筑波大学,北陸先端科学技術大学院大学,慶應義塾大学,科学技術振興機構(JST)

令和6年8月30日

筑波大学
北陸先端科学技術大学院大学
慶應義塾大学
科学技術振興機構(JST)

ダイヤモンド結晶中の色中心から飛び出す準粒子を発見

ポイント

ダイヤモンドの結晶中に不純物として窒素(Nitrogen)が存在すると、すぐ隣に炭素原子の抜け穴(空孔:Vacancy)ができることがあります。この窒素と空孔が対になったNitrogen-Vacancy(NV)中心はダイヤモンドの着色にも寄与し、色中心と呼ばれる格子欠陥となります。NV中心には周辺環境の温度や磁場の変化を極めて敏感に検知して量子状態が変わる特性があり、この特性を高空間分解能・高感度なセンサー機能として利用することが期待されています。NV中心の周りの結晶格子のひずみにより、NV中心の電子のエネルギー準位が分裂することが分かっていますが、電子と格子ひずみの相互作用メカニズムなど詳細については、ほとんど解明されていませんでした。

本研究では、純度の高いダイヤモンド結晶の表面近傍に、密度を制御したNV中心を極めて薄いシート(ナノシート)状に導入しました。そのシートにパルスレーザーを照射し、ダイヤモンドの格子振動の様子を調べた結果、NV中心の密度が比較的低いにもかかわらず、格子振動の振幅が約13倍に増強されることが分かりました。そこで、量子力学に基づく計算手法(第一原理計算)でNV中心の周りの電荷状態を計算したところ、正負の電荷が偏った状態になっていることが分かりました。

電子と結晶格子の振動をまとめて1つの粒子とみなしたものをポーラロン準粒子と呼び、これにはいくつかのタイプがあります。ダイヤモンドでは、約70年前にフレーリッヒが提案したタイプは形成されないと考えられていましたが、今回の解析結果は、フレーリッヒ型のポーラロンがNV中心から飛び出してナノシート全体に広がっていることを示しています。本研究成果は、ポーラロンを利用したNV中心に基づく量子センシング技術の新たな戦略への道筋を開くものです。

本研究成果は、2024年8月30日(現地時間)に、「Nature Communications」に掲載されます。

本研究は、科研費による研究プロジェクト(22H01151、22J11423、22KJ0409、23K22422、24K01286)、および科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 CREST「ダイヤモンドを用いた時空間極限量子センシング」(研究代表者:長谷 宗明)(JPMJCR1875)の一環として実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Cooperative dynamic polaronic picture of diamond color centers”
DOI:10.1038/s41467-024-51366-x

<お問い合わせ先>

(英文)“Discovering Quasiparticles Ejected from Color Centers in Diamond Crystals”

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