理化学研究所,神戸大学,三重大学,科学技術振興機構(JST)

令和6年8月29日

理化学研究所
神戸大学
三重大学
科学技術振興機構(JST)

マウス初期胚の型破りなDNA複製様式を発見

~初期胚型から体細胞型への遷移が染色体分配異常の引き金に~

理化学研究所(理研) 生命機能科学研究センター 発生エピジェネティクス研究チームの高橋 沙央里 研究員、平谷 伊智朗 チームリーダー、染色体分配研究チームの北島 智也 チームリーダー、神戸大学 大学院農学研究科の京極 博久 助教(理研 生命機能科学研究センター 染色体分配研究チーム 客員研究員)、三重大学 大学院生物資源学研究科の竹林 慎一郎 教授らの共同研究グループは、受精直後のマウス初期胚における特殊なゲノムDNA複製様式を発見し、これが通常の体細胞型の複製様式に段階的に変化する過程で染色体分配異常が高頻度に生じていることを見いだしました。

本研究成果は、体細胞で見られる安定したゲノムDNA複製が受精後に確立する仕組みや、哺乳類の発生初期に染色体分配異常が多い理由の理解につながり、受精卵を対象とした生殖医療においても基礎的知見となることが期待できます。

近年、体細胞におけるゲノムDNA複製の仕組みについての理解は進みましたが、哺乳類胚のゲノムDNA複製の解析は技術的に困難であり、初期発生過程で比較的多いとされる染色体分配異常の正確な頻度や原因は未解明でした。

今回、共同研究グループは、独自の1細胞全ゲノム解析技術を駆使してマウス初期胚のDNA複製を調べた結果、受精直後の1、2細胞期には体細胞のような複製タイミング制御が見られず、DNA鎖の合成速度も体細胞に比べて格段に遅いことを発見しました。体細胞型のDNA複製様式は8細胞期になって初めて確立されますが、その中間の4細胞期は初期胚型と体細胞型の性質を併せ持つ「移行期型」の不安定な複製様式を示し、ここで生じた未複製DNA部位が染色体分配異常の引き金になっている可能性が高いことを明らかにしました。

本研究は、科学雑誌「Nature」オンライン版(現地時間2024年8月28日付)に掲載されます。

本研究は、理化学研究所 運営費交付金(生命機能科学研究)で実施し、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CRESTの研究領域「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出(研究総括:塩見 春彦)」の研究課題「潜在的不安定性から読み解くゲノム設計原理(研究代表者:平谷 伊智朗、JPMJCR20S5)」、同 さきがけの研究領域「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」の研究課題「顕微操作技術による初期胚の不安定なゲノムの分配システムの解明(研究代表者:京極 博久、JPMJPR20K4)」、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 挑戦的研究(開拓)「1細胞全ゲノム解析の第二世代化と多次元化への挑戦(研究代表者:平谷 伊智朗)」、同 新学術領域研究(研究領域提案型)「細胞分化にともなうクロマチンポテンシャルの変化とその分子基盤(研究分担者:平谷 伊智朗)」「染色体イメージングによる卵子インテグリティの予見(研究代表者:北島 智也)」「受精卵が全能性を維持するために染色体分配異常から回復するメカニズムの解明(代表研究者:京極 博久)」、同 学術変革領域研究(A)「染色体が制御する生殖ライフスパン(研究代表者:北島 智也)」、同 基盤研究(B)「哺乳類卵母細胞における紡錘体二極化の機構の解明(研究代表者:北島 智也)」、同 若手研究「1細胞DNA複製タイミング解析による発生分化過程の核内コンパートメント動態予測(研究代表者:高橋 沙央里)」、持田記念医学薬学振興財団「マウス初期胚発生における染色体三次元構造と遺伝子発現の統合1細胞解析(研究代表者:高橋 沙央里)」、理研 新領域開拓課題「TADからゲノム構築原理を読み解く(領域代表者:古関 明彦)」「長時間分子生物学(領域代表者:北島智也)」による助成を受けて行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Embryonic genome instability upon DNA replication timing program emergence”
DOI:10.1038/s41586-024-07841-y

<お問い合わせ先>

(英文)“Chromosome copy errors pinpointed in embryo development”

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