ポイント
- 鉄系高温超伝導体(Ba,K)Fe2As2の人工の粒界を世界に先駆けて作製した。
- 他の鉄系高温超伝導体に比べて、(Ba,K)Fe2As2の粒界をまたいで流れる超伝導電流(粒界電流)が一桁大きいことが分かった。
- 外部磁場を印加しても、粒界電流が指数関数的に減衰を始める粒界角が、他の鉄系超伝導体と異なり、大きく変化しないことが分かった。
- このような良好な特性を示す理由として、粒界部位において小さな粒界角が積み重なった独特な粒界面を形成していることが考えられる。
- (Ba,K)Fe2As2が、低コストで作製可能な多結晶形態での応用に適した高性能超伝導材料であることを証明した。
名古屋大学の畑野 敬史 准教授、東京農工大学の秦 東益 博士後期課程学生、内藤 方夫 シニアプロフェッサー、山本 明保 准教授、日本大学の飯田 和昌 教授、九州大学の郭 子萌 博士研究員(当時)、高 紅叶 博士研究員、斉藤 光 准教授、嶋田 雄介 准教授、波多 聰 教授との共同研究で、鉄系高温超伝導体のうち、最も実用化が期待されている物質である(Ba,K)Fe2As2で、粒界においても高い超伝導性能を持つことを明らかにしました。
高い超伝導転移温度を示す銅酸化物高温超伝導体および鉄系高温超伝導体は、粒界において隣接する結晶同士のずれ角度が大きくなると、程度の差はあるものの粒界をまたいで流れる超伝導電流が強く抑制されてしまう「粒界弱結合」という問題があるため、多結晶形態での産業応用は難しいとされています。今回、(Ba,K)Fe2As2の単一人工粒界を世界に先駆けて作製し、粒界弱結合の影響を調べたところ、結晶のずれ角度が24度まで到達しても、超伝導電流の減衰が他の高温超伝導体と比べて緩やかであることが分かりました。本成果は、多結晶でも高い性能を発揮できる高温超伝導体材料の創製へと展開しうるものであり、医療用MRIや交通インフラなどで重要な役割を果たす高性能超伝導磁石の高性能化・低コスト化につながる成果です。
本研究成果は、2024年8月23日にネイチャー・パブリッシング・グループの学術誌「NPG Asia Materials」に掲載されました。
本研究は、2018年度から始まった科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST 「超伝導インフォマティクスに基づく多結晶型超伝導材料・磁石の開発」(研究代表者:山本 明保、JPMJCR18J4)の一環で実施されました。また、日本学術振興会 科学研究費補助金の助成、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM)の支援も受けて行われたものです。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(918KB)
<論文タイトル>
- “High tolerance of the superconducting current to large grain boundary angles in potassium-doped BaFe2As2”
- DOI:10.1038/s41427-024-00561-9
<お問い合わせ先>
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E-mail:hatanomp.pse.nagoya-u.ac.jp東京農工大学 大学院工学研究院 先端物理工学部門 准教授
山本 明保(ヤマモト アキヤス)
Tel:042-388-7235
E-mail:akiyasucc.tuat.ac.jp日本大学 生産工学部電気電子工学科 教授
飯田 和昌(イイダ カズマサ)
Tel:047-474-2367
E-mail:iida.kazumasanihon-u.ac.jp九州大学 大学院総合理工学研究院 教授
波多 聰(ハタ サトシ)
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