ポイント
- 従来、熱発電を行うためには、加熱や冷却を行うことにより物質内に温度差を作り出すことが必要であり、見かけ上は温度差がないような物質中の温度の“揺らぎ”を利用した熱発電は困難であると考えられてきました。
- 東京大学の研究チームで、温度揺らぎを活用できる現象である、温度差の2乗に比例する非線形熱電効果の実証に初めて成功しました。
- 今回の成果は、これまで利用されてこなかった温度揺らぎを用いた、全く新たなセンサーや環境発電素子の動作原理となることが期待されます。
東京大学 大学院工学系研究科の有沢 洋希 助教、齊藤 英治 教授(社会連携講座「新しい物理現象を用いた次世代環境配慮デバイスの開発」 特任教授)らの研究グループは、温度差の2乗に比例する新たな熱電効果の実証に成功しました。
物質中の温度差(温度勾配)を電気に変換できる現象を熱電効果と呼びます。従来の熱電効果は温度勾配に比例した電場を生み出し、物質中に巨視的な温度勾配がない場合には電圧は生じないと考えられてきました。しかし、巨視的な温度勾配がなく一見同じ温度に見える物質中にも、ミクロスケールでは空間的・時間的な温度の変動があり、これは温度揺らぎと呼ばれます。このような温度揺らぎを利用することができれば、全く新しい温度揺らぎセンシング素子や環境発電素子を実現できるはずですが、これまでこの温度揺らぎは見過ごされてきました。
今回有沢助教らは、この温度揺らぎを利用できる可能性のある、温度勾配の2乗に比例した電場が生じる「非線形」な熱電効果の実証に成功しました。非線形熱電効果を選択的に検出する測定手法を開発し、磁性体Y3Fe5O12上に作製した第2種超伝導体MoGe(モリブデンゲルマニウム)薄膜中の熱電電圧が入力の温度勾配に対して2次の非線形性を示すことを発見しました。今回の発見は、非平衡温度揺らぎを検出するセンサー、さらには巨視的な温度勾配がない状況下でも非平衡温度揺らぎから発電可能な全く新たな環境発電素子の動作原理となる可能性を秘めています。
本研究成果は、2024年8月26日(英国夏時間)に英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載されます。
本研究成果は、住友化学株式会社との共同研究である社会連携講座「新しい物理現象を用いた次世代環境配慮デバイスの開発」の支援および助言を受け、本研究成果を基礎としたさらなる研究を展開しています。また、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「非古典スピン集積システム(JPMJCR20C1)」、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金基盤S(JP19H05600)などの一環で得られました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(361KB)
<論文タイトル>
- “Observation of nonlinear thermoelectric effect in MoGe/Y3Fe5O12”
- DOI:10.1038/s41467-024-50115-4
<お問い合わせ先>
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有沢 洋希(アリサワ ヒロキ)
東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 助教
Tel:03-5841-6853
E-mail:h.arisawaap.t.u-tokyo.ac.jp齊藤 英治(サイトウ エイジ)
東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 教授
社会連携講座「新しい物理現象を用いた次世代環境配慮デバイスの開発」 特任教授
理化学研究所 理化学研究所 創発物性科学研究センター チームリーダー
東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 主任研究者
Tel:03-5841-6505
E-mail:eiziap.t.u-tokyo.ac.jp -
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