ポイント
- 遺伝子重複は進化や疾患において重要な役割を果たしていますが、それを実験的に誘導することはできませんでした。
- DNA複製の現場である複製フォークを破壊することによって、狙い通りの遺伝子重複を誘導する新しいタイプのゲノム編集技術PNAmpを開発しました。
- PNAmpは、実験進化・疾患モデル作成・有用物質生産などへの幅広い応用が期待されます。
遺伝子重複は、さまざまな生物の進化を駆動してきたのみならず、さまざまな疾患への関与も明らかになりつつあります。しかし近年、ゲノム編集技術が目覚ましい発展を遂げても、遺伝子を含むゲノム領域を狙い通りに重複させることはできませんでした。
本研究では、標的ゲノム領域の縦列反復を誘導する新しい手法「PNAmp(Paired Nicking-induced Amplification)」を開発しました。
九州大学 大学院医学研究院の伊藤 隆司 教授、杉山 友貴 大学院生(研究当時)、岡田 悟 助教らとがん研究会 がん研究所の大学 保一 プロジェクトリーダーの共同研究グループは、ゲノム編集に用いられるCas9たんぱく質の変異体nCas9を複製起点の両側に配置して、DNA複製の現場である複製フォークを崩壊させることによって、配置点に挟まれた領域の縦列反復を誘導する手法PNAmpを考案しました。出芽酵母をモデルにPNAmpの可能性を検討したところ、約100万塩基対(1メガベース)に及ぶ領域であっても、その両末端部が互いに相同な配列であれば、10%超の効率で縦列に反復させることができました。さらに、両末端部に全く相同性がないゲノム領域であっても、両末端部の配列から構成した人工的DNA断片を共存させることによって、PNAmpによる縦列反復を誘導できることが分かりました。また、ヒト培養細胞にもPNAmpが適用可能であることを示しました。
複製フォーク操作に基づく新しいゲノム編集技術であるPNAmpは、従来は不可能だった遺伝子重複を可能にし、実験進化学・疾患研究・育種など、生命科学の幅広い分野に貢献するものと期待されます。
本研究成果はアメリカ合衆国の雑誌「Cell Genomics」オンライン版に2024年7月25日(木)(日本時間)に公開されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) CREST(JPMJCR19S1)の助成を受けたものです。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.22MB)
<論文タイトル>
- “Strategic targeting of Cas9 nickase induces large segmental duplications”
- DOI:10.1016/j.xgen.2024.100610
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