東京大学,科学技術振興機構(JST)

令和6年7月4日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

カルボキシ基を活用した温和な条件でのポリエチレンの分解

~低エネルギーで再利用できるプラスチックの開発に向けて~

ポイント

東京大学 大学院工学系研究科の野崎 京子 教授、高橋 講平 特任講師、Bin Lu(ビン・ルー) 特任研究員、山本 悠太 大学院生、片島 拓弥 講師、同大学 生産技術研究所の吉江 尚子教授、中川 慎太郎 講師、Jian Zhou(ジェン・ジョウ) 特任研究員(研究当時)らの研究グループは、カルボキシ基が少量置換したポリエチレンを対象とし、少量のセリウムを共存させて可視光を当てると、その分子鎖が切断され、小さな断片へと変換できることを発見しました。

今回、本研究グループはポリエチレンそのものではなく、ポリエチレンに少量のカルボキシ基を含む高分子である「カルボキシ化ポリエチレン」のカルボキシ基を分解の足がかりとして応用するという着想のもと研究を行いました。具体的には、カルボン酸から炭素ラジカルを生じさせる方法が有機合成分野の研究ですでに知られていたため、これをカルボキシ化ポリエチレンに適用することでポリエチレンの鎖上に炭素ラジカルを発生させ、その高い反応性から鎖が切断されると考えました。

高分子を反応させる場合、高温で融解させることや溶媒に溶解させることが一般的でした。そのため、研究開始当初はそのような反応条件を検討していました。しかし、さまざまな反応条件を検討するなか、少量のセリウム塩共存下でLEDランプの光(青色)を当てると、カルボキシ化ポリエチレンが溶解も融解もしないアセトニトリル溶媒中、80度の条件でも反応が進行し、その分子量が10,000程度から500程度まで低下することが明らかとなりました。さらにこの反応は水中でも進行するばかりでなく、カルボキシ化ポリエチレンと少量のセリウム塩をすり混ぜて混合したものであれば溶媒を用いずとも、粉末に光を当てるだけで進行することが明らかとなりました。より実用に即した実験として、粉末ではなく厚み0.1ミリメートルのフィルムを用いた場合でも反応は進行し、低分子量化することができました。

既存のポリエチレンの分解・再利用の技術は一般には300-500度の高温を必要としており、学術研究としても150度程度が限界でした。本手法を用いることでその温度を80度と大幅に低減することができます。本手法で低分子量化した断片はさらなるガス化や油化に用いることで有用な化学原料に変換できると期待されるため、総エネルギーコストの面で優れたケミカルリサイクルの実現へとつながるものと考えられます。

なお、本研究成果は、2024年7月1日(米国東部夏時間)にアメリカ化学会が発行する学術誌である「Journal of the American Chemical Society」の速報版としてジャーナルHPに公開されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ERATO「野崎樹脂分解触媒プロジェクト(課題番号:JPMJER2103)」(研究総括:野崎 京子)の支援により実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Mild Catalytic Degradation of Crystalline Polyethylene Units in Solid State Assisted by Carboxylic Acid Groups”
DOI:10.1021/jacs.4c07458

<お問い合わせ先>

(英文)“Mild Catalytic Degradation of Crystalline Polyethylene Units in a Solid State Assisted by Carboxylic Acid Groups”

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