ポイント
- 自閉スペクトラム症(以下、自閉症)の「友人を記憶する能力の低下」という症状は、脳のどの領域の機能が変化したことに起因するかは分かっていなかった。
- 他者についての記憶(社会性記憶)を貯蔵する海馬の腹側CA1領域の神経細胞において、自閉症関連遺伝子Shank3が働かなくなると、「友人を記憶する能力の低下」という自閉症の症状が現れた。本研究により、自閉症の病態に海馬が関与することが明らかになった。
- 自閉症における神経発達障害の神経メカニズムの理解が進むとともに、海馬腹側CA1領域が自閉症の新規治療法開発における標的領域となる可能性が期待される。
東京大学 定量生命科学研究所の奥山 輝大 准教授、同大学 大学院医学系研究科 ジョン・ミョン 大学院生(研究当時)らのグループは、自閉症における「友人を記憶する能力の低下」という症状が、海馬の腹側CA1領域の異常に起因することを発見しました。
私たちは日々の生活の中で、友人一人一人を記憶することができますが、自閉症の方はその能力が一部低下していることが知られています。マウスを用いた本研究では、他者についての記憶を貯蔵している「海馬腹側CA1領域」に注目し、自閉症関連遺伝子のShank3遺伝子の働きをin vivoゲノム編集技術(CRISPR/Cas9法)により機能欠損させたところ、「友人を記憶する能力の低下」という症状を模倣することに成功しました。
自閉症の病態神経メカニズムの理解が進むとともに、いまだ創薬が進んでいない自閉症の新規治療法開発において、海馬腹側CA1領域が創薬標的領域となる可能性が期待されます。
本研究成果は、2024年6月12日(現地時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST)「創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR2143)」「さきがけ(課題番号:JPMJPR1781)」「CREST(課題番号:JPMJCR23B1)」、日本学術振興会(JSPS)「科学研究費助成事業(課題番号:JP18H02544、JP20K21459、JP21H02593、JP21H05140)」「特別研究員奨励費(課題番号:JP22J11822、JP22J21085、JP20J01468、JP19J00911)」、日本医療研究開発機構(AMED)「脳とこころの研究推進プログラム(課題番号:JP21wm0525018)」、内藤記念科学振興財団、セコム科学技術振興財団の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(539KB)
<論文タイトル>
- “Conditional knockout of Shank3 in the ventral CA1 by quantitative in vivo genome-editing impairs social memory in mice”
- DOI:10.1038/s41467-024-48430-x
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
奥山 輝大(おくやま てるひろ)
東京大学 定量生命科学研究所 附属高度細胞多様性研究センター 行動神経科学研究分野 准教授
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E-mail:okuyamaiqb.u-tokyo.ac.jp -
<JST事業に関すること>
東出 学信(ヒガシデ タカノブ)
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<報道担当>
東京大学 定量生命科学研究所 総務チーム
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