名古屋大学,科学技術振興機構(JST)

令和6年5月30日

名古屋大学
科学技術振興機構(JST)

ミトコンドリア内膜の特性を蛍光寿命で解析する新技術を開発

~細胞へのストレスにより膜の流動性が変化することを発見~

ポイント

名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の多喜 正泰 特任准教授、山口 茂弘 教授らの研究グループは、高い耐光性と優れた環境応答性を兼ね備えたミトコンドリア内膜で特異的な蛍光を発する標識剤を開発し、内膜特性の違いを蛍光寿命の違いとして観察する新たな技術を開発しました。

細胞には数万種類を超える脂質が存在し、主な脂質成分は生体膜の構成要素として利用されています。脂質組成の違いが細胞間や細胞小器官(オルガネラ)間での相互作用や、たんぱく質の機能制御と深く関連していることが知られています。一般的に脂質構造の多様性を理解するには質量分析による解析が有用ですが、質量分析では試料が破損してしまうために生きた細胞内における膜動態を観察することができません。一方、蛍光イメージングは生きた細胞内のオルガネラ動態の観察に適した技術ですが、脂質は既に手法が確立しているたんぱく質とは異なり遺伝子工学によって直接蛍光標識することができません。そのため、脂質組成によって変化するオルガネラ膜の特性を蛍光イメージングによって評価することは困難でした。

本研究では、優れた耐光性を持ち、かつ色素周囲の極性環境に応答して蛍光特性が変化するミトコンドリア内膜標識剤を開発しました。ミトコンドリア内膜はひだ状の折りたたみ構造を形成しており、特有の脂質特性を持っていることが知られています。今回開発した化合物を用いて細胞を標識し、蛍光寿命顕微鏡(FILM)で観察したところ、ミトコンドリア内膜には流動性が高い領域と低い領域があることを発見しました。ミトコンドリア内膜の特性は、細胞種や培養条件によっても異なり、特に細胞をストレス下で培養すると、膜の流動性は著しく低下することを生細胞中で観察することに成功しました。

本研究成果は、2024年5月28日付ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載されました。

本研究は、以下の事業・共同利用研究施設による支援を受けて行われました。
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR21O5)、ERATO(JPMJER2101)、日本学術振興会 科学研究費補助金(19H02849、23K06101)

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Fluorescence Lifetime Imaging of Lipid Heterogeneity in the Inner Mitochondrial Membrane with a Super-photostable Environment-sensitive Probe”
DOI:10.1002/anie.202404328

<お問い合わせ先>

(英文)“Fluorescence Lifetime Imaging of Lipid Heterogeneity in the Inner Mitochondrial Membrane with a Super-photostable Environment-sensitive Probe”

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