ゲノムDNAにコードされた遺伝情報を正しく読み写し、生命機能の担い手であるたんぱく質の発現を保証することは、すべての生命にとって必須なプロセスです。特に、その最終段階である翻訳反応はその主役であるリボソームを含め多数の因子が関わり、複写された塩基配列上の遺伝情報を読み解き、アミノ酸配列へと変換する非常に複雑な反応ですが、技術の発展に伴い、翻訳反応のメカニズムや制御機構の詳細が明らかにされつつあります。しかし、翻訳反応の曖昧さを補完する翻訳品質管理機構に関しては、この機構の担い手である因子(たんぱく質)の微生物種間における多様性について十分に解明されていませんでした。
本研究では、モデル微生物である枯草菌(こそうきん)を対象に当該研究者がこれまで世界に先駆けて明らかにしてきた微生物における翻訳品質管理機構RQC(Ribosome associated Quality Control)に関して、新規関連因子YlmHを同定しました。RQCにおいては、主要因子RqcHが促進因子RqcPと協働し、翻訳異常に起因して伸長途中で解離した50Sサブユニットを認識し、未成熟な翻訳途上ペプチドに分解タグを付加することで分解・除去を促します。遺伝学的解析・クライオ電子顕微鏡による立体構造解析によって、新規関連因子YlmHが促進因子RqcPの機能を代替することを明らかにしました。加えて、生命情報科学的解析から、RQCの主要因子RqcHは保持する一方、促進因子RqcPを保持していない微生物群の多くで、今回同定した関連因子YlmHが保存されていることを明らかにしました。RqcPとYlmHはS4 domainという共通した機能ドメインを持っており、枯草菌のようにRqcPおよびYlmHの2種類の促進因子を保持する微生物種やどちらか一方を保持している微生物種など、種間で多様性があることを明らかにしました。遺伝子の発現を保証する機構は生命の根幹であり、今回の研究成果は、翻訳異常によって引き起こされる生体機能異常の分子メカニズムを理解するための基盤になることが期待されます。
本研究成果は、2024年5月30日付で「Nucleic Acid Research」に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ACT-Xによる研究プロジェクト(JPMJAX21BC)の一環として実施されました。また日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金・基盤研究(C)(23K05017)(研究代表者:高田 啓)、学術変革領域研究(A)(20H05926)、基盤研究(C)(21K06053)(研究代表者:千葉 志信)、若手研究(19K16044、21K15020)(研究代表者:藤原 圭吾)にご支援いただきました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(899KB)
<論文タイトル>
- “A role for the S4-domain containing protein YlmH in ribosome-associated quality control in Bacillus subtilis.”
- DOI:10.1093/nar/gkae399
<お問い合わせ先>
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〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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