東京大学,群馬大学,科学技術振興機構(JST)

令和6年5月9日

東京大学
群馬大学
科学技術振興機構(JST)

「主鎖編集」により微生物で分解するプラスチック合成へ新たな道

~プロピレンと一酸化炭素と過酸化水素から合成~

ポイント

東京大学 大学院工学系研究科の野崎 京子 教授、山口 和也 教授、高橋 講平 特任研究員、Haobo・Yuan(ハオボー・ユエン) 特任研究員、林 慎也 大学院生(研究当時)、Chifeng・Li(チーフォン・リー) 大学院生(研究当時)、同大学 生産技術研究所の吉江 尚子教授、中川 慎太郎 講師、Jian・Zhou(ジェン・ジョウ) 特任研究員(研究当時)、群馬大学 大学院理工学府の粕谷 健一 教授、同大学 食健康科学教育研究センターの鈴木 美和 助教、藤掛 伸宏 研究員(研究当時)らの研究グループは、工業原料として安価で豊富に得られるプロピレンと一酸化炭素と過酸化水素から、生分解性プラスチックとして知られるポリ3-ヒドロキシブタン酸(P3HB)と同じ構造を持つ高分子を合成する方法を見いだし、さらにその一部は土壌微生物により無機化されることを明らかにしました。

今回、本研究グループは、目的の高分子を直接合成するのではなく、目的とは異なる高分子をまず合成し、その分子の鎖に対して別の反応を施す「主鎖編集」戦略を採用しました。まず、既知の方法に従い、プロピレンと一酸化炭素との反応により高分子であるポリケトンを合成しました。続いて、このポリケトンへ酸化反応による「主鎖編集」を行いエステルへと変換されたポリエステルを得ることを想定し研究を行いました。一般的な酸化反応に加えて数多くの方法を検討しましたが、高分子であるポリケトンは、反応性が低いため、ほとんどの場合全く反応が起こりませんでした。

ところが、安価かつ豊富な酸化剤である過酸化水素を用い、反応を促進するために塩化アルミニウムを加えたところ、速やかに反応が進行し、ケトン全体の約40パーセントがエステルへと酸化された、「ポリケトンエステル」が得られました。ポリケトンエステルは、生分解性ポリマーのP3HBと同一の構造を含むため、微生物により分解されることが期待されます。得られたポリケトンエステルを土壌から得られた微生物に与えたところ、無機化が確認され、微生物による分解性を示すことが分かりました。また、得られたポリケトンエステルの応用を目指し、もろく、製品への応用が難しい生分解性ポリ乳酸に添加したところ、耐久性が向上することが示唆されました。したがって、ポリケトンエステルが既知の生分解性プラスチックの性質改善に応用できる可能性も見いだされました。

生分解性プラスチックであるP3HBは、現在は微生物を用いたバイオプロセスによって生産されており、その高い生産コストの低減にはいくつかの課題があります。今回のようにプロピレンと一酸化炭素と過酸化水素という非常に安価かつ豊富に得られる原料から化学合成する道が開かれたことは画期的であり、上記の生分解性プラスチックの大規模かつ低コストな生産プロセスへとつながる重要な成果です。

なお、本研究成果は、2024年5月6日(米国東部夏時間)にアメリカ化学会が発行する学術誌である「Journal of the American Chemical Society」の速報版としてジャーナルHPに公開されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ERATO「野崎樹脂分解触媒プロジェクト(課題番号:JPMJER2103)」(研究総括:野崎 京子)の支援により実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Synthesis of Novel Polymers with Biodegradability by Main-Chain Editing of Chiral Polyketones”
DOI:10.1021/jacs.4c04389

<お問い合わせ先>

(英文)“Synthesis of Novel Polymers with Biodegradability by Main-Chain Editing of Chiral Polyketones”

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