ポイント
- 量子力学で記述される、原子・分子などの微小な世界で、鳥や魚の群れを代表とするアクティブマターと類似の振る舞いを示すシステムを研究し、そこで生じる非平衡状態において強磁性秩序が発現する、新しいメカニズムを発見しました。
- 反発する力とアクティブ性(それぞれの粒子が持つ推進力)だけで強磁性秩序が生じる本メカニズムは、古典力学で記述される従来のアクティブマターとは異なり、量子力学で記述されるアクティブマターに特徴的な現象です。
- 近年、基礎研究が盛んに進められている非平衡量子系やアクティブマターの理解を進展させるものとなるだけでなく、デバイス技術の基礎であるスピンや磁性に関わる本成果は、新たな量子技術・量子デバイスの開発につながることが期待されます。
東京大学 大学院理学系研究科の高三 和晃 助教と川口 喬吾 准教授、理化学研究所の足立 景亮 研究員らによる研究グループは、生物などのマクロな系を中心に研究されてきたアクティブマターの概念を、これまでほとんど適用されてこなかった、原子スケールのミクロな世界に拡張し、非平衡状態において磁気秩序が生じる新しいメカニズムを理論的に発見しました。このメカニズムは、鳥や魚が群れを形成する相転移(フロッキング転移)の量子力学版と捉えることができます。さらに本メカニズムには、反発し合う力とアクティブ性(それぞれの粒子が持つ推進力)だけで向きがそろうという、これまでのフロッキング転移にはない特徴があり、アクティブマター研究にも新しい視点をもたらすものです。スピンや磁気秩序というデバイス技術の基礎に直結する本研究の成果は、新しい量子技術・量子デバイスの創出に将来的につながると期待されます。
本研究成果は、米国東部標準時(夏時間)2024年4月26日に「Physical Review Research」に掲載されます。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)「ゆらぎと応答の基本限界から探索する生体分子の設計原理(課題番号:JP19H05795)」、「接着性培養細胞を用いた非平衡協同現象における普遍性の探索(課題番号:JP20K14435)」、「自己駆動する集団におけるカイラル輸送現象の研究(課題番号:JP21H01007)」、「量子アクティブマター物理の開拓と物性科学への応用(課題番号:JP22K20350)」、「細胞内構造を支えるヘテロポリマー間相互作用の網羅的解析(課題番号:JP23H00095)」、「古典系・量子系におけるKardar-Parisi-Zhang普遍法則の統一的理解の構築(課題番号:JP23K17664)」、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「非平衡物質相を利用した革新的量子デバイス技術の創出(課題番号:JPMJPR2256)」の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “Activity-induced ferromagnetism in one-dimensional quantum many-body systems”
- DOI:10.1103/PhysRevResearch.6.023096
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