物質・材料研究機構(NIMS),東海国立大学機構 名古屋大学,科学技術振興機構(JST)

令和6年3月28日

物質・材料研究機構(NIMS)
東海国立大学機構 名古屋大学
科学技術振興機構(JST)

ありふれた軟磁性合金が3分の熱処理で次世代熱電変換材料に変身

~磁性体を用いた横型熱電変換のための材料開発に新指針~

NIMSと名古屋大学からなる研究チームは、トランスやモーター用の軟磁性材料として広く利用されている鉄基アモルファス合金が、短時間の熱処理だけで、電流と熱流をそれぞれ直交する方向に変換できる“横型”熱電変換材料になることを実証しました。本成果は、横型熱電変換材料の開発において微細組織のエンジニアリングが重要であることを示した初めての例であり、磁性体を用いた環境発電・熱マネジメント技術の実現に向けた新たな材料設計指針を提供するものです。

磁性材料における横型熱電効果を用いれば、電流と熱流がそれぞれ平行な方向に変換される縦型熱電効果と比較して、熱電変換素子の構造が簡略化されるため、素子の汎用性・耐久性の向上や低コスト化につながると期待されています。横型熱電変換のための磁性材料開発においては、電子構造に着目した新物質探索が主流であり、材料中の微細組織に着目した研究は行われていませんでした。

今回、研究チームは、鉄基アモルファス合金を3分間熱処理するだけで、材料の平均組成を変えることなく、横型熱電効果の1つである異常ネルンスト効果の性能(異常ネルンスト係数)が大幅に向上することを実証しました。最適温度で熱処理した際に得られた異常ネルンスト係数は、これまで知られていた磁性アモルファス合金の中で最高値を示し、この性能向上には合金中に生じたナノサイズの銅析出物が重要な役割を担っていることを明らかにしました。この結果は、異常ネルンスト係数の向上において、材料の電子構造や組成だけでなく、微細組織の設計・制御も重要であることを示すものです。

今回開発した磁性材料は容易に量産化・大面積化が可能で、自在に曲げることもできます。今後、微細組織制御によりさらに異常ネルンスト係数が大きい磁性材料を開発することで、電子デバイスの省エネルギー化に資する発電技術や熱センシング技術への応用展開を目指していきます。

本研究は、NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センターのRavi Gautam ポスドク研究員、平井 孝昌 研究員、大久保 忠勝 副センター長、内田 健一 上席グループリーダー、世伯理 那仁 グループリーダー、名古屋大学のAbdulkareem Alasli 特任助教、長野 方星 教授によって行われました。

本研究成果は、日本時間2024年3月27日に「Nature Communications」誌にオンライン掲載されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ERATO「内田磁性熱動体プロジェクト」(研究総括:内田 健一、課題番号:JPMJER2201)の一環として行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Creation of flexible spin-caloritronic material with giant transverse thermoelectric conversion by nanostructure engineering”
DOI:10.1038/s41467-024-46475-6

<お問い合わせ先>

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