ポイント
- 細胞運動のアクセルとなる酵素PI3Kにブレーキ機構も内蔵されていることを解明しました。
- PI3Kとエンドサイトーシス分子AP2との結合を介したPI3Kの新規制御機構が判明しました。
- 細胞の運動やがん化過程におけるPI3Kの役割の理解を深め、新規治療薬開発への道を開くことが期待される成果です。
PI3K(ホスホイノシトール3-キナーゼ)は、細胞の運動や増殖、がん化などに関わる重要な酵素で、抗がん剤のターゲットとなるなど医学的にも重要な分子です。東北大学 学際科学フロンティア研究所の松林 英明 助教らは、PI3Kのアミノ酸配列の中に、従来知られていなかったAP2結合配列を発見し、このAP2結合配列が、PI3K本来の酵素活性とは別に、細胞膜を細胞内側へ取り込む働き(エンドサイトーシス)を誘発することを明らかにしました。さらにAP2と結合できないように改変したPI3Kは、細胞をより速く運動させることから、PI3KとAP2との結合が細胞運動のブレーキとして働くことが示されました。これまでPI3Kは、その酵素活性によって細胞運動のアクセルとして機能すると考えられてきましたが、本研究の成果によって、PI3Kには、AP2結合配列を介したブレーキ機構も内蔵されていることが分かりました。PI3Kの新たな制御機構が明らかになったことで、PI3Kが関わる疾患の機序解明や、それらの治療薬開発のための知見となることが期待されます。
本研究成果は、オンライン科学誌「Nature Communications」にて、2024年3月23日付で公開されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」研究領域 研究課題名「潜在する生命のゲノムが創出する原始細胞骨格機能の具現化」(JPMJPR20KA、研究代表者:松林 英明)、日本学術振興会(JSPS) 科研費(20H00618、20H05971、22K12255、研究代表者:川又 生吹)、JSPS 海外特別研究員制度(松林 英明)、アメリカ国立衛生研究所(NIH)グラント(研究代表者:井上 尊生)、アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)グラント(研究代表者:井上 尊生)の助成により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(494KB)
<論文タイトル>
- “Non-catalytic role of phosphoinositide 3-kinase in mesenchymal cell migration through non-canonical induction of p85β/AP2-mediated endocytosis”
- DOI:10.1038/s41467-024-46855-y
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
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東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教
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科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ
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