東京大学,理化学研究所,科学技術振興機構(JST)

令和6年3月27日

東京大学
理化学研究所
科学技術振興機構(JST)

RNAの触手が遺伝暗号を読み解く

~tRNA修飾の新機能~

ポイント

東京大学 大学院工学系研究科の秋山 奈穂 大学院生、鈴木 勉 教授の研究グループは、理化学研究所 生命機能科学研究センターの石黒 健介 訪問研究員(研究当時、現:客員研究員/東京大学 特任助教)、横山 武司 研究員(研究当時、現:東北大学 助教)、白水 美香子 チームリーダーらとの共同で、クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析により、リボソーム上でtRNA修飾がAUAコドンを解読する仕組みを明らかにしました。

tRNAにはさまざまな化学修飾が含まれており、これらはたんぱく質合成を行うために重要な役割を担っています。特に、アンチコドン領域に見られる修飾は、tRNAがmRNA上のコドンを読み取る能力を付与することで、正確かつ効率的なたんぱく質合成を可能にしています。

細菌やアーキア(古細菌)では、AUAコドンをイソロイシン(Ile)に解読するtRNA(tRNAIle2)のアンチコドン1字目(34位)に特徴的なシチジン修飾を持っています。細菌のtRNAIle2はライシジン(L)、アーキアのtRNAIle2にはアグマチジン(agmC)と呼ばれるシチジン修飾を用いています。LとagmCはいずれも長い側鎖の末端に塩基性の官能基を持つ特徴的な化学構造を持ちますが、AUAコドンを解読する際にこれらがどのような役割を担うかは明らかになっていませんでした。

本研究では、リボソーム上で細菌およびアーキアのtRNAIle2がAUAコドンを解読する様子を、クライオ電子顕微鏡を用い、高分解能な構造解析で明らかにしました。LとagmCのシトシン環は、同一の配向でAUAコドンの3字目のアデニン塩基と1本の水素結合を形成することが分かりました。また、LとagmCの長い修飾側鎖がmRNAの下流に向かって伸び、末端の塩基性官能基が、AUAコドンの隣の残基と水素結合する様子が観察されました。実際に、mRNAの変異体を用いた実験で、この水素結合が形成されないと、AUAコドンの認識効率が低下することが判明しました。

さまざまなtRNA修飾がたんぱく質合成の精度や効率に重要であることは知られていますが、具体的にどのような仕組みでその機能が発揮されるかは、よく分かっていませんでした。本研究は、細胞の生育に必須なシチジン修飾が、どのようにコドン解読を行うかを、分子レベルで解き明かしました。特に、tRNA修飾の側鎖が、mRNAのコドン以外の残基と相互作用するという発見は、tRNA修飾の全く新しい機能であり、生命科学の基本原理を解き明かした成果であると言えます。

本研究成果は、英国時間2024年3月27日に「Nature Structural&Molecular Biology」に掲載されます。

本研究は、日本学術振興会(JSPS)の特別研究員奨励費「原核生物におけるAUAコドン解読の分子基盤」(代表:秋山 奈穂、23KJ0409)、基盤研究(S)「RNAエピジェネティックスと高次生命現象」(代表:鈴木 勉、26220205)、基盤研究(S)「RNA修飾の変動と生命現象」(代表:鈴木 勉、18H05272)、新学術領域研究 研究領域提案型「ncRNAのケミカルタクソノミ」(代表:鈴木 勉、26113003)、および科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(ERATO)「鈴木RNA修飾生命機能プロジェクト」(研究総括:鈴木 勉、JPMJER2002)などの支援を受けて実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Structural insights into the decoding capability of isoleucine tRNAs with lysidine and agmatidine”
DOI:10.1038/s41594-024-01238-1

<お問い合わせ先>

(英文)“Structural insights into the decoding capability of isoleucine tRNAs with lysidine and agmatidine”

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