NIMSは、熱電材料と磁性材料を積層したシンプルな構造を用いて、熱流と直交方向に電界を生む「横型」熱電効果を飛躍的に増大できることを世界で初めて実証しました。本成果は、横型熱電効果を利用した新規な環境発電技術や熱流センサーといったデバイス実現に貢献するものです。
廃熱などを活用し電気エネルギーを得る熱電変換技術として、ゼーベック効果を用いた研究が盛んに行われています。しかし、ゼーベック効果は、熱流と電流が平行した方向に現れる「縦型」熱電効果であり、複雑な素子構造とそれに起因した耐久性やコスト面の問題が指摘されています。一方、磁性材料に特有の熱電現象である異常ネルンスト効果は、熱流と電流が直交方向に現れる「横型」熱電効果であるため、素子構造がシンプルになり、新規な環境発電技術や熱流センサーとしての活用が期待されています。しかし、異常ネルンスト効果で生じる室温での熱電変換性能は1ケルビンの温度差当たり10マイクロボルトに満たず、変換効率が低いという大きな問題があります。
今回、研究チームは、熱電材料と磁性材料を積層し電気的に接触させた極めて単純な構造において現れる「ゼーベック駆動横型磁気熱電効果」により、異常ネルンスト効果をはるかに超える横型の熱電能を得られることを世界で初めて実験的に実証しました。理論モデルにより横熱電能を増幅する熱電材料と磁性材料の膜厚比率を予測し、大きなゼーベック効果を示すシリコン(Si)上に、膜厚を制御した磁性材料鉄ガリウム(Fe-Ga)薄膜を積層することで、最大で15.2マイクロボルト毎ケルビンの出力を観測しました。これはFe-Ga単体の異常ネルンスト効果(2.4マイクロボルト毎ケルビン)のおよそ6倍もの性能向上に相当します。
本成果は、熱電材料と磁性材料を接触させただけの極めて単純な2層構造で、横型熱電効果を増大できることを実証したものであり、熱電発電技術などの実用デバイスへの汎用性の高さが大きな特徴です。今後は、社会の省エネルギー化に資する熱電発電デバイス応用に向け、実用上求められる体積の大きなバルク材料を含めて研究を展開させていきます。
本研究は、NIMS 若手国際研究センターの周 偉男 ICYSリサーチフェロー、磁性・スピントロニクス材料研究センター 磁気機能デバイスグループの桜庭 裕弥 グループリーダー、スピンエネルギーグループの内田 健一 上席グループリーダー、ナノ組織解析グループの佐々木 泰祐 グループリーダーによって行われました。
本研究成果は、2024年3月6日付(現地時間)で学術誌「Advanced Science」にオンライン掲載されました。
本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO「内田磁性熱動体プロジェクト」(研究総括:内田 健一、課題番号:JPMJER2201)の支援を受けて行いました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(635KB)
<論文タイトル>
- “Direct-contact Seebeck-driven transverse magneto-thermoelectric generation in magnetic/thermoelectric bilayers”
- DOI:10.1002/advs.202308543
<お問い合わせ先>
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NIMS 若手国際研究センター(ICYS) ICYSリサーチフェロー
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NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センター 磁気機能デバイスグループ グループリーダー
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