日本医科大学,科学技術振興機構(JST)

令和6年3月4日

日本医科大学
科学技術振興機構(JST)

肺胞形成における血管の新たな役割を発見

~血管内皮細胞は肺胞の形作りに必要な足場を作る~

日本医科大学 先端医学研究所 病態解析学部門の高野 晴子 講師、福原 茂朋 大学院教授を中心とした研究グループは、血管内皮細胞が肺胞の形作りを調節する、新たなメカニズムを発見しました。

肺は、呼吸における酸素と二酸化炭素の交換を担う生命維持に欠かせない臓器であり、このガス交換を担う場が、「肺胞」です。肺胞は小さな袋状の構造をしており、内面を覆う肺胞上皮細胞とそれを裏打ちする血管内皮細胞が密に接着することで、肺胞内の空気と血液の間のガス交換を可能としています。肺には数億もの肺胞がありますが、重度の肺疾患では肺胞が破壊され呼吸が困難となり、死に至ることもあります。これまで、壊れた肺胞を効率的に再生させる方法は確立されておらず、その実現には肺胞という複雑な構造が作られる仕組みを理解する必要があります。

肺胞の形成には、強い収縮力(縮まる力)を持つ「肺胞筋線維芽細胞」が関与しています。成長期の肺では、筋繊維芽細胞が終末嚢(しゅうまつのう)と呼ばれる袋状の構造に巻き付き、収縮してくびれを作ることにより、肺胞が形成されると考えられています。しかし、筋繊維芽細胞の収縮や肺胞形成がいかに調節されているかについてはいまだ不明な点が多く残されています。今回、研究グループは、血管内皮細胞だけでRap1遺伝子を破壊したマウスの解析から、血管内皮細胞は、筋繊維芽細胞の足場となる基底膜を形成することで、筋繊維芽細胞による肺胞形成を制御していることを発見しました。そのメカニズムとして、血管内皮細胞は、Rap1によりインテグリンを活性化し、細胞外マトリックスであるIV型コラーゲンを集積することで、基底膜を形成すること、さらに、筋繊維芽細胞がこの基底膜を足場とすることで収縮し、肺胞を形成することを見いだしました。本研究成果は、肺胞形成における血管内皮細胞の新たな役割とその制御メカニズムを明らかにしたものであり、感染性呼吸器疾患や慢性閉塞性肺疾患などの難治性の呼吸器疾患において、肺胞の再生を促す新しい治療法を生み出す可能性があります。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、2024年3月4日(月)(日本時間)にオンライン版で発表されます。

本研究は、主に科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業「血管内皮細胞を基軸としたメカニカルシグナルによる肺胞形成メカニズムの解明」(JPMJFR220T、研究代表者:高野 晴子)、文部科学省 科学研究費助成事業(21H02665、21K19358、23K18245、23K06325)、文部科学省 科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(女性リーダー育成型)」の支援を受けて実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Endothelial cells regulate alveolar morphogenesis by constructing basement membranes acting as a scaffold for myofibroblasts”
DOI:10.1038/s41467-024-45910-y

<お問い合わせ先>

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