ポイント
- 口腔内細菌の一種であるアクチノマイセス・オドントリティカス(A.odontolyticus)が大腸がんの初期段階の発がん過程に関与することを見いだしました。
- A.odontolyticusが菌体外に放出する細胞外小胞が、大腸上皮細胞での炎症やDNA損傷を惹起 し、発がんに関わることを証明しました。
- 今後これらの結果を踏まえた新たな大腸がん予防策開発への貢献が期待されます。
東京大学 医学部附属病院 光学医療診療部の宮川 佑 特任臨床医、同院 消化器内科の大塚 基之 講師(研究当時、現 岡山大学 学術研究院 医歯薬学域 教授)、藤城 光弘 教授らの研究グループは、口腔内細菌の一種であるアクチノマイセス・オドントリティカス(A.odontolyticus)が大腸がんの発がん初期の過程に密接に関与することを明らかにしました。これまでの腸内細菌のゲノム解析の結果から、A.odontolyticusが大腸がんの発がん早期の患者の便中に多く見られることが知られていましたが、この細菌の大腸がん発症への関与について(がんの原因なのか結果なのか)は不明でした。今回の研究で、A.odontolyticusが産生する細胞外小胞である膜小胞(Membrane vesicles:MVs)が、腸管上皮細胞の炎症を惹起すること、また腸管上皮細胞内の活性酸素種を増加させDNA損傷をもたらすことで、発がんを惹起する可能性が示されました。そのメカニズムとして、A.odontolyticus由来のMVsがToll様受容体2(TLR2)を介して大腸上皮に炎症性シグナルを誘導するとともに、MVsが腸管上皮細胞内に取り込まれてミトコンドリアの機能障害を引き起こすことで活性酸素種の過剰な産生をもたらし、その結果大腸上皮細胞のDNA損傷を惹起して、発がんに関与していることを同定しました。
本研究成果は2024年2月2日付け(現地時間)で、「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」に掲載されます。
本研究は、JSPS 科研費「肝星細胞由来の分泌膜小胞の超精密分析を基盤とした老化に伴う肝疾患の病態解明(課題番号:20J20625)研究代表者:柴田 智華子」、「血中循環腫瘍細胞を用いた大腸癌遠隔転移を規定する遺伝子群の同定(課題番号:21K15916)研究代表者:石橋 嶺」、科学技術振興機構(JST) CRESTの「細胞外微粒子に起因する生命現象の解明とその制御に向けた基盤技術の創出」領域(研究課題名「細胞外微粒子の1粒子解析技術の開発を基盤とした高次生命科学の新展開」研究代表者:渡邉 力也、研究分担者:大塚 基之、課題番号:JPMJCR19H5)などの支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.51MB)
<論文タイトル>
- “Gut bacteria-derived membrane vesicles induce colonic dysplasia by inducing DNA damage in colon epithelial cells.”
- DOI:10.1016/j.jcmgh.2024.01.010
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
宮川 佑(ミヤカワ ユウ)
東京大学 医学部附属病院 光学医療診療部 特任臨床医
大塚 基之(オオツカ モトユキ)
岡山大学 学術研究院医歯薬学域 消化器・肝臓内科学 教授
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<JST事業に関すること>
保田 睦子(ヤスダ ムツコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
E-mail:crestjst.go.jp
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<報道担当>
東京大学 医学部附属病院 パブリック・リレーションセンター 担当:渡部、小岩井
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E-mail:pradm.h.u-tokyo.ac.jp
岡山大学 総務・企画部 広報課 担当:山本
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科学技術振興機構 広報課
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