ポイント
- 誤り耐性型量子コンピューターに必要な論理量子ビットを光で生成した。
- 従来手法では非常に多数の量子ビットを用いて1つの論理量子ビットを構成するのに対し、今回初めて1つの光パルスを用いた論理量子ビット生成を実現した。
- 生成した量子ビットの性能をさらに向上させ、既存の大規模光量子プロセッサーと組み合わせることで、大規模誤り耐性型高速光量子コンピューターの実現が期待される。
東京大学 大学院工学系研究科の紺野 峻矢 大学院生(研究当時)およびアサバナント ワリット 助教、古澤 明 教授らの研究チーム、情報通信研究機構(以下、NICT)、理化学研究所、チェコ共和国のPalacký UniversityのPetr Marek 准教授およびRadim Filip 教授、ドイツ連邦共和国のUniversity of MainzのPeter van Loock 教授は、伝搬する光の論理量子ビットであるGottesman-Kitaev-Preskill量子ビット(以下GKP量子ビット)を世界で初めて生成しました。
誤り耐性型量子コンピューターを実現するため、通常は非常に多数の量子ビットを用いて、それらを1つの論理量子ビットとして構成します(以降、区別のため、通常の量子ビットを物理量子ビットと呼びます)。この方法では用いる物理量子ビットの数が膨大であることが、実用的な量子コンピューターへの最大の障壁となっています。一方、GKP量子ビットは、1つの光パルスの中で1つの物理量子ビットを用い1つの論理量子ビットの生成を実現できます。これまでGKP量子ビットは有力視されてきましたが、光では実現に至っていませんでした。
本研究では、東京大学とNICTが共同開発した超伝導性を用いた光子検出器を用いて、光におけるGKP量子ビットの生成を世界で初めて実現しました。このGKP量子ビットは同研究グループで実現された大規模光量子プロセッサーと相性がよく、大規模な誤り耐性型光量子コンピューターの誤り耐性につながると期待されます。
本研究成果は、2024年1月18日(米国東部時間)に「Science」に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構 ムーンショット型研究開発事業 ムーンショット目標6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」(プログラムディレクター:北川 勝浩 大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授)研究開発プロジェクト「誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの研究開発(JPMJMS2064)」(プロジェクトマネージャー(PM):古澤 明 東京大学 大学院工学系研究科 教授)、「ネットワーク型量子コンピュータによる量子サイバースペース(JPMJMS2066)」(PM:山本 俊 大阪大学 大学院基礎工学研究科/量子情報・量子生命研究センター 教授)による支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(490KB)
<論文タイトル>
- “Logical states for fault-tolerant quantum computation with propagating light”
- DOI:10.1126/science.adk7560
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