ポイント
- 大規模な量子コンピューターでは、エラーを訂正しながら計算を進める誤り耐性の手法が不可欠ですが、そのためには多数の量子ビットを追加して複雑な計算手順を踏む必要があり、量子ビット数の高効率性と計算速度の高速性の両立が課題でした。
- 本研究では、特殊な入れ子の構造を用いてエラー訂正する誤り耐性の新しい手法を提案しました。
- この提案は、高効率性と高速性を初めて同時に達成するもので、全世界的に進んでいる量子コンピューター開発における基盤技術として今後の幅広い活用が期待されます。
東京大学 大学院理学系研究科の山崎 隼汰 助教と同大学 大学院工学系研究科の小芦 雅斗 教授は、量子コンピューターの高効率性と高速性を両立するために、誤り耐性のある計算手順の新しい仕組みを提案しました。
大規模な量子コンピューターでは、ノイズの影響で量子ビットに生じるエラーを訂正しながら誤り耐性のある計算手順を踏むことが不可欠です。この手順は一般に複雑で、さらに多数の量子ビットを追加する必要があるため、そうした中で量子ビット数の高効率性と計算速度の高速性を両立した計算手順を設計しなければならないという難しい課題がありました。初期に提案された手法は、1個の量子ビットをノイズから守る単純な符号を入れ子構造にして使うことでエラー訂正能力を高めていましたが、大量の量子ビットが必要で効率が悪いという問題がありました。最近では、多数の量子ビットを守る複雑な符号を入れ子にせずにそのまま使うことで効率性を高める提案もありますが、複雑な符号を使うために計算速度が大きく低下してしまうという問題がありました。今回の研究では、複数の量子ビットを守る符号を特殊な入れ子構造にして使う手法を新たに開発することで、高効率性を達成しつつ高速性も損なわない計算手順を初めて見いだしました。誤り耐性のある量子計算の高効率化・高速化を同時に達成した本研究の成果は、全世界的に進んでいる量子コンピューター開発における基盤技術として今後の幅広い活用が期待されます。
本研究成果は、2024年1月16日(英国時間)に「Nature Physics」に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) ムーンショット型研究開発事業 ムーンショット目標6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」(プログラムディレクター:北川 勝浩 大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授) 研究開発プロジェクト「誤り耐性型量子コンピュータにおける理論・ソフトウェアの研究開発」(プロジェクトマネージャー(PM):小芦 雅斗 東京大学 大学院工学系研究科 教授)(JPMJMS2061)、および、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「革新的な量子情報処理技術基盤の創出」研究領域(研究総括:富田 章久)における研究課題「高速な量子機械学習の基盤構築」(JPMJPR201A)、および日本学術振興会(JSPS) 海外特別研究員制度による支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(444KB)
<論文タイトル>
- “Time-Efficient Constant-Space-Overhead Fault-Tolerant Quantum Computation”
- DOI:10.1038/s41567-023-02325-8
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