NIMSと東京工業大学の研究チームは、液体水素の大規模な輸送と貯蔵に不可欠なオルソ/パラ水素変換触媒材料の設計原理を明らかにしました。
化石燃料に代わる有力な燃料として認知されつつある水素は、マイナス253度以下の温度と1気圧以上の圧力で体積が大幅に減少して液体となり、輸送や貯蔵に適した状態になります。2個の水素原子からなる水素分子は、オルソ水素とパラ水素の2つの形態で存在します。通常、水素分子は75:25(オルソ水素:パラ水素)の割合で存在します。しかし、オルソ水素はパラ水素よりもエネルギー的にわずかに安定性に欠けるため、徐々に冷却されるとパラ水素に変換し、最終的には100パーセントパラ水素の安定した液体水素となります。
解決すべき課題は、この変換の速度が遅いことに起因します。大規模な液体水素貯蔵や輸送のために水素ガスを急速に加圧・冷却すると、オルソ水素からパラ水素への変換が遅れ、液体中にエネルギー的に不安定なオルソ水素がかなり残ってしまいます。この残留オルソ水素は貯蔵中も変換を続け、エネルギー放出と液体水素の部分気化を引き起こし、大きなロスをもたらします。この問題を解決するには、水素ガスを液化する前に、触媒を使ってオルソ水素/パラ水素の変換を促進する必要があります。しかし、従来の触媒材料では、この迅速な変換を促進するには不十分であり、より効果的な触媒の開発が必要とされてきました。
本研究では、金属やイオン性結晶を含む170種類以上の固体材料について、オルソ/パラ水素変換の触媒活性を広範囲に評価しました。このスクリーニングにより、酸化マンガン(Mn3O4)と酸化コバルト(CoO)が、従来の酸化鉄ベースの触媒に比べてはるかに優れた触媒性能を持つことが明らかになりました。さらに、オルソ/パラ水素変換における触媒活性の程度に影響を与える主要な因子が特定されました。
液体水素は、特にオーストラリアや中東のような水素生産・輸出国と日本のような水素輸入国との間の長距離海上輸送において重要な役割を果たしています。本研究で発見された触媒設計指針と高性能触媒は、日本における水素経済の発展を大きく前進させると期待されます。
本研究は、NIMS エネルギー・環境材料研究センター 水素製造触媒材料グループ 阿部 英樹 グループリーダーと、同 NIMS ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA) 溝口 拓 特別研究員、東京工業大学 細野 秀雄 栄誉教授からなる研究チームによって行われました。
本研究成果は、「Wiley Exploration」に2023年12月15日に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 未来社会創造事業 JPMJMI18A3の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(514KB)
<論文タイトル>
- “Exploration of Heterogeneous Catalyst for Molecular Hydrogen Ortho-Para Conversion”
- DOI:10.1002/EXP.20230040
<お問い合わせ先>
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NIMS MANA
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Tel:045-924-5009
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