奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 物質創成科学領域の廣田 俊 教授、博士後期課程2年生の酒井 隆裕と、筑波大学 計算科学研究センターの重田 育照 教授、大分大学 研究マネジメント機構の一二三 恵美 教授、兵庫県立大学 大学院理学研究科の緒方 英明 教授の共同研究グループは、免疫反応で病原体など異物を認識して攻撃する抗体について、抗体同士が新たなパターンで結合(会合)している会合体を発見しました。抗体は長短2本のたんぱく質(免疫グロブリン)がセットで「Y字」型の上部(可変領域)で抗原を認識します。今回の発見で、その短い方のたんぱく質である抗体軽鎖の可変領域で4つの抗体が会合して4量体を形成する状態が単量体の状態との平衡状態で存在していることが分かりました。さらに、その会合状態を原子レベルで明らかにし、新たな様式で会合体を形成することを突き止めました。
今回の成果は、抗体の安定性向上と新規抗体医薬品の開発に役立つ研究として期待されます。
抗体は新型コロナウイルス感染症の拡大で大きく注目され、製薬および医療用途の両方で目覚ましい成功を収めています。しかし、抗体は容易に凝集し、抗原を認識する能力が損なわれるという問題があります。さらに、間違った立体構造で折り畳まれたたんぱく質は凝集しやすく、疾患を引き起こす可能性があり、抗体軽鎖が凝集して発症する疾患に「AL(免疫グロブリン性)アミロイドーシス」があります。こうしたことから、抗体軽鎖の凝集様式を解明することは大変重要ですが、抗体の凝集体の会合状態に関する原子レベルの詳細情報は限られています。
廣田 教授らは、カラムクロマトグラフィーというたんぱく質の大きさを分析する方法とX線結晶構造解析という分子の立体構造を調べる方法を用いました。まず、会合と解離の平衡状態を取る抗体軽鎖を見つけました。次に、4量体の試料について結晶化に成功し、大型放射光施設「SPring-8」の放射光X線を使って分子構造を原子レベルで特定しました。その結果、可変領域が分子間で同じ立体構造の一部を交換する現象である3Dドメインスワッピングにより会合し2量体を形成すること、この2量体がさらに2量化することで4量体を形成することが明らかとなりました。3Dドメインスワッピングした2量体同士の相互作用界面には多くの疎水性アミノ酸残基が存在し、この水分子の影響を妨げる疎水性相互作用が4量体を安定化させていました。今回の研究成果により明らかになった抗体の新しい会合様式は、抗体分子の会合の阻害、酵素による抗体分解の阻害、抗体医薬品の開発などに役立つ情報です。
この成果は、2023年12月8日(金)(日本時間)にオンライン発行される「Nature Communications」誌に掲載されます。
本研究は、日本学術振興会(JP26288080、JP20338388)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「原子・分子の自在配列・配向技術と分子システム機能」研究領域(研究総括:君塚 信夫)における研究課題「3Dドメインスワッピングを利用したタンパク質の自在配列と機能化」(JPMJCR20B3)の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(694KB)
<論文タイトル>
- “Structural and Thermodynamic Insights into Antibody Light Chain Tetramer Formation through 3D Domain Swapping”
- DOI:10.1038/s41467-023-43443-4
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
廣田 俊(ヒロタ シュン)
奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 物質創成科学領域 教授
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<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066
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<報道担当>
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