京都大学,科学技術振興機構(JST)

令和5年12月1日

京都大学
科学技術振興機構(JST)

熱が誘起するすべり流れを検出

~光ピンセットを援用した可視化手法により熱泳動のメカニズム解明へ~

京都大学 大学院情報学研究科 辻 徹郎 准教授、梅 世哲 修士課程学生(研究当時)、田口 智清 教授らの研究グループは、温度勾配を持つ流体中に置かれたマイクロ粒子の表面近傍に、光ピンセットで流れを検出するトレーサーを留めるという独自手法で、熱浸透すべり流の発生を検出しました。

熱浸透すべり流は、微小粒子の温度勾配方向への泳動現象である熱泳動の主要なメカニズムの1つと考えられています。熱泳動は、分子やコロイドなどの微小粒子の分離、濃縮、分析技術への応用が期待されており、そのメカニズムの理解は重要な基礎研究課題です。しかし、熱浸透すべり流が検出困難な遅い流れであること、また、微小粒子表面近傍という狭い空間で生じる流れであることが障壁となっているためか、その実験的評価はこれまで行われていませんでした。

辻准教授らの研究グループでは、強い熱浸透すべり流を誘起するために、集光レーザーによる光熱効果を用いて流体中に強い温度勾配を形成しました。さらに、流れを検出するトレーサーを光ピンセットによりマイクロ粒子表面近傍の領域に留めることで、温度勾配に起因する流れの検出に成功しました。これは、熱から流れを作り出す技術や、熱を利用して物質を分離する技術の基盤となる研究成果です。

本成果は、2023年11月30日(現地時間)にアメリカ物理学会の国際学術雑誌「Physical ReviewApplied」にオンライン掲載されました。また、研究成果の概要がアメリカ物理学会のオンライン雑誌「Physics」のSYNOPSISに取り上げられました。

本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業・基盤研究S「機械学習によるナノ粒子流の制御と一分子識別技術への応用(研究代表者:川野 聡恭)」(JP18H05242)、基盤研究B「局在力場における単一ナノ粒子運動の実験と数理(研究代表者:辻 徹郎)」(JP20H02067)、挑戦的研究(萌芽)「運動論的方程式に対する特性線法の開発と複雑境界値問題への応用(研究代表者:辻 徹郎)」(JP22K18770)、基盤研究C「不連続境界条件に対応したすべり流理論の開発と自己駆動する粒子への適用と応用(研究代表者:田口 智清)」(JP22K03924)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「複雑な流動・輸送現象の解明・予測・制御に向けた新しい流体科学(研究総括:後藤 晋)」における研究課題「Optothermal fluidicsの分子流体科学への展開(研究代表者:辻 徹郎)」(JPMJPR22O7)による助成を受けて行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Thermo-osmotic slip flows around a thermophoretic microparticle characterized by optical trapping of tracers”
DOI:10.1103/PhysRevApplied.20.054061

<お問い合わせ先>

(英文)“Thermo-osmotic slip flows around a thermophoretic microparticle characterized by optical trapping of tracers”

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