東京大学,科学技術振興機構(JST),理化学研究所,京都産業大学

令和5年11月22日

東京大学
科学技術振興機構(JST)
理化学研究所
京都産業大学

tRNAの糖修飾がたんぱく質合成速度を調節する

ポイント

東京大学 大学院工学系研究科の鈴木 勉 教授と鈴木 健夫 講師(研究当時、現:琉球大学 医学部 教授)の研究グループは、哺乳動物tRNAのキューオシン(Q)修飾に糖(ガラクトースおよびマンノース)を付加する2種類の酵素、QTGALおよびQTMANを同定しました。研究グループはQTGALおよびQTMANの組換えたんぱく質を取得し、生化学的な解析から、糖ヌクレオチドを基質とするtRNAの糖付加Q修飾反応を再構成しました。また酵素の特徴から立体化学選択的な糖転移の仕組みを明らかにしました。さらに速度論的な解析から、糖付加Q修飾が細胞内の糖ヌクレオチドの濃度によって制御される可能性を見いだしました。

次に、理化学研究所の岩崎 信太郎 主任研究員らと共同で、QTGALおよびQTMANの遺伝子破壊株のリボソームプロファイリングを行い、糖付加Q修飾は適切なコドン解読速度を調節する役割があることを見いだしました。糖付加Q修飾による適切な翻訳速度の調節はプロテオスタシスの維持に重要な役割を担っていることも明らかになりました。理化学研究所の白水 美香子 チームリーダーらと共同で、クライオ電子顕微鏡を用いてヒトリボソームとtRNAの複合体の立体構造を解明し、糖付加Q修飾がコドン解読を制御する分子基盤を明らかにしました。さらに、京都産業大学 生命科学部 先端生命科学科の三嶋 雄一郎 准教授らとの共同研究により、QTGALおよびQTMANの欠損したゼブラフィッシュの変異体を作成し、その表現型の解析から、糖付加Q修飾が欠損すると生後の生育が遅れるという興味深い知見を得ました。また、糖付加Q修飾の欠損は統合的ストレス応答(Integrated Stress Response)を引き起こすことも分かりました。

以上の結果から、tRNAの糖付加Q修飾は適切な翻訳速度を調節することでプロテオスタシスを維持し、個体の正常な生育に寄与することが分かりました。本成果は、ユニークなtRNA修飾の生合成と機能の研究から、遺伝暗号の解読機構を明らかにした重要な研究成果です。また本成果を利用することで、将来的に、tRNAの機能を調節することにより、創薬にも応用できる可能性があります。

本研究成果は、2023年11月21日(米国東部時間)に「Cell」に掲載されます。

本研究は、基盤研究(S)「RNAエピジェネティックスと高次生命現象」(代表:鈴木 勉、26220205)、基盤研究(S)「RNA修飾の変動と生命現象」(代表:鈴木 勉、18H05272)、新学術領域研究 研究領域提案型「ncRNAのケミカルタクソノミ」(代表:鈴木 勉、26113003)、若手研究(A)「希少RNA修飾はなぜ存在するのか?ヒトにおける役割から探る」(代表:鈴木 健夫、26702035)、基盤研究(B)希少なRNA修飾の機能究明と動的調節機構の提唱(代表:鈴木 健夫、18H02094)、基盤研究(B)ヒトに特有な希少RNA修飾の分子・生理機能の探求(代表:鈴木 健夫、22H02208)、および科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(ERATO)「鈴木RNA修飾生命機能プロジェクト」(研究総括:鈴木 勉、JPMJER2002)などの支援を受けて実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Glycosylated queuosines in tRNAs optimize translational rate and post-embryonic growth”
DOI:10.1016/j.cell.2023.10.026

<お問い合わせ先>

(英文)“Glycosylated queuosines in tRNAs optimize translational rate and post-embryonic growth”

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