東海国立大学機構名古屋大学,東京工業大学,大阪大学,国立がん研究センター,科学技術振興機構(JST)

令和5年11月8日

東海国立大学機構名古屋大学
東京工業大学
大阪大学
国立がん研究センター
科学技術振興機構(JST)

セルロースナノファイバーを用いた新しいエクソソーム捕捉ツール
「EVシート」を開発

~生体内におけるエクソソームの空間解析とがん医療応用に期待~

ポイント

名古屋大学 医学部附属病院産婦人科(同大学 高等研究院 兼務)の横井 暁 病院講師、同大学 大学院医学系研究科 産婦人科学の梶山 広明 教授、および東京工業大学 生命理工学院生命理工学系の安井 隆雄 教授、大阪大学 産業科学研究所の古賀 大尚 准教授、国立がん研究センター研究所 病態情報学ユニットの山本 雄介 ユニット長らの研究グループは、木材由来のセルロースナノファイバーを用いて、新しいエクソソーム捕捉ツールである「EVシート(EV:Extracellular vesicle:細胞外小胞)」を開発しました。卵巣がんを対象として、従来採取不可能であった微量体液からのエクソソーム回収と保存を実現し、さらに解析を行うことで、新しいエクソソームの特性を明らかにしました。これらの結果から、EVシートがエクソソームを対象とした新しい医療マテリアルになるものとして期待されます。

エクソソームを含むEVは、ヒトのあらゆる体液中に存在し、細胞間コミュニケーションに不可欠なツールとして注目されています。また、疾患に応じてEVが内包する生理活性分子に変化が生じるため、有望な疾患バイオマーカーとして期待されています。EVの回収技術に関しては、世界的にさまざまな手法の開発が進められていますが、ごく微量の試料からのEV回収は極めて困難とされていました。

本研究グループは、木材由来の新素材であるセルロースナノファイバーを用いて、EV捕捉に適したナノ細孔構造を持つEVシートを開発し、吸水性や乾燥によって閉孔する特性を生かすことで、極めて微量な体液からEVを回収・保存する手法を確立しました。EVシートはわずか10マイクロリットル(1ミリリットルの1000分の1)程度の体液からEVを回収することができ、さらにその回収したEVを用いて、内包する生理活性分子の解析が可能です。また、湿った臓器に直接EVシートを数秒貼り付けることで、臓器本体には影響を与えることなく、臓器表面の微量な体液からEVを回収することも可能です。治療に難渋する悪性腫瘍である卵巣がんを対象に、EVシートの精度を確認し、これまで明らかにされなかったEVの新しい特性を明らかにしました。さらに、手術中や、手術前後に、EVシートを用いて簡便かつ高効率に回収したEVは、がんの診断や治療薬選択に寄与する新しいバイオマーカーとなる可能性が明らかになりました。EVシートを用いることで、これまで解析できなかった生体内におけるEVの空間・機能解析が可能となり、その先の医療応用が期待されます。

本研究成果は、学術雑誌「Nature Communications」の電子版(2023年11月8日付)に掲載されます。

本研究は主に、科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業:研究課題名「がん細胞外小胞の臨床応用へ向けた基盤技術開発研究(JPMJFR204J)」「生物素材を用いた持続性エレクトロニクスの創成(JPMJFR2003)」、JST 戦略的創造研究推進事業さきがけ:研究課題名「細胞外小胞の網羅的捕捉と機械的解析によるmiRNA分泌経路の解明(JPMJPR19H9)」、日本医療研究開発機構(AMED)の次世代がん医療加速化研究事業:研究課題名「微量体液中エクソソーム解析による革新的がん腹膜播種バイオマーカー開発」、および新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、官民による若手研究者発掘支援事業:研究課題名「ナノファイバーが拓く無侵襲な体液解析による日常的かつ包括的な健康状態モニタリング」の支援を受け行ったものです。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Spatial exosome analysis using cellulose nanofiber sheets reveals the location heterogeneity of extracellular vesicles”
DOI:10.1038/s41467-023-42593-9

<お問い合わせ先>

(英文)“Extracellular vesicles captured using sustainable wood cellulose-based nanofiber sheets may identify and improve cancer treatment”

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