東京大学,理化学研究所,北海道大学,科学技術振興機構(JST)

令和5年10月31日

東京大学
理化学研究所
北海道大学
科学技術振興機構(JST)

99パーセントが水からできた固体なのに、水となじみにくい
「ゲル・ゲル相分離材料」を発明

~その場で生体組織を再生することができる革新的な足場材料の可能性~

ポイント

東京大学 大学院工学系研究科の酒井 崇匡 教授、石川 昇平 助教、作道 直幸 特任准教授と、同大学 大学院医学系研究科の北條 宏徳 准教授、理化学研究所 生命機能科学研究センターの岡田 康志 チームリーダー(東京大学 大学院医学系研究科・大学院理学系研究科 教授)、北海道大学 大学院先端生命科学研究院のLi Xiang 准教授の研究グループは、水溶性高分子であるポリエチレングリコール(PEG)の網目が大量の水を保持したPEGハイドロゲルにおいて、新しい相分離現象「ゲル・ゲル相分離」(Gel-Gel Phase Separation,GGPS)を発見しました。ハイドロゲル(以下、ゲルと省略)は、多くの水を含む固体の材料で、ゼリーや寒天などの食品を始め、ソフトコンタクトレンズや止血剤などの医療機器としても用いられている私たちになじみの深い材料です。ゲル・ゲル相分離は、含水率99パーセント程度の大量の水を含む状態でゲルを効率的に作ることで誘起されました。ゲル・ゲル相分離により、希薄ゲルの中に100マイクロメートル程度の濃厚ゲルの繊維状網目が張り巡らされ、細胞外マトリックス類似のスポンジ構造を持つ「ゲル・ゲル相分離材料」が形成されました。驚くべきことに、ゲル・ゲル相分離材料は疎水性を示しました。PEGはドラッグデリバリー、組織工学、診断など多様な医学的用途に広く利用されており、その有用性から50万報を超える学術論文が出版されていますが、今回発見されたような疎水性スポンジ構造の自発的な形成過程の観察例はありませんでした。さらに、ゲル・ゲル相分離材料をモデル動物の皮下に埋め込んだところ、周囲から細胞が入り込み、血管を含む脂肪組織が形成されました。このような、特異的な生体組織親和性は従来のPEGゲルでは全く見られません。これらの結果より、生体内において細胞が入り込み、その場で組織再生を促す足場材料としての可能性が示されました。

本研究成果は、日本時間2023年10月31日に「Nature Materials」のオンライン版で公開されます。

この研究は、日本学術振興会(JSPS) 研究員研究助成金(課題番号20J01344)、若手研究(課題番号19K14672)、基盤研究(B)(課題番号22H01187、22H02135)、基盤研究(A)(課題番号21H04688)、新学術領域研究(課題番号19H05794、19H05795)、学術変革領域研究B(助成番号20H05733)、JST さきがけ(課題番号JPMJPR1992)、JST CREST(課題番号JPMJCR1992、JPMJCR1852、JPMJCR20E2)、JST FOREST(課題番号JPMJFR201Z、JPMJFR225N)、ムーンショット型研究開発事業(課題番号JP22zf0127002、JPMJMS2025)、およびデータ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト(課題番号JPMXP1122714694)の支援により実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Percolation-induced gel–gel phase separation in a dilute polymer network”
DOI:10.1038/s41563-023-01712-z

<お問い合わせ先>

(英文)“Percolation-induced gel–gel phase separation in a dilute polymer network”

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