ポイント
- ビタミンE構造を含む人工脂質を用いて作られた脂質ナノ粒子が、がん免疫や感染免疫を促進する性質を持つことを見いだしました。
- この脂質ナノ粒子にmRNAを搭載したRNAワクチンは、がんや感染細胞を殺傷するキラーT細胞と呼ばれる免疫細胞を強く活性化しました。
- このRNAワクチンを生体内で取り込み、キラーT細胞を直接活性化する橋渡し役の免疫細胞を特定しました。
- RNAワクチンのメカニズム解析は、より効率的なワクチンの開発や、目的のタンパク質を補充するmRNA医薬の創出につながることが期待されます。
RNAワクチンは、病原体の目印となる「抗原」を遺伝子情報としてメッセンジャーRNA(mRNA)に組み込み、生体内でたんぱく質が作られるようにした製剤です。mRNAを生体内の細胞の中に届けるために、脂質ナノ粒子(LNP:Lipid Nanoparticle)が使用されています。SARS-CoV-2に対して迅速な応用が進んだ一方、その免疫誘導メカニズムには未解明な部分が多いのも現状です。
東北大学 大学院薬学研究科の秋田 英万 教授、理化学研究所 生命医科学研究センターの岡田 峰陽 チームリーダーを中心とする研究グループは、ビタミンEを構造内に含む人工脂質を用いてLNPを作製し、mRNAを組み込むと、がんや感染細胞を殺傷するキラーT細胞と呼ばれる免疫細胞を強く活性化するRNAワクチンとして働くことを見いだしました。また、本LNPを生体内で取り込み、キラーT細胞にワクチン抗原を提示する免疫細胞を特定しました。
本知見は副作用の少ないRNAワクチンの開発や、ワクチン以外の遺伝子治療のような免疫応答が不要な医薬品の創出へ貢献すると期待されます。
本成果は2023年9月27日(現地時間)に「ACS Nano誌電子版」に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) CREST(JPMJCR17H1)およびムーンショット型研究開発事業(JPMJMS2025)、JSPS 科学研究費助成事業(17H06558、18K18377、21K18035、21K18320)などの研究費支援を受けて実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.16MB)
<論文タイトル>
- “An ionizable lipid material with a Vitamin E scaffold as an mRNA vaccine platform for efficient cytotoxic T cell responses”
- DOI:10.1021/acsnano.3c02251
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
秋田 英万(アキタ ヒデタカ)
東北大学 大学院薬学研究科 教授
Tel:022-795-6831
E-mail:hidetaka.akita.a4tohoku.ac.jp
岡田 峰陽(オカダ タカハル)
理化学研究所 生命医科学研究センター チームリーダー
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<JST事業に関すること>
保田 睦子(ヤスダ ムツコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064 -
<報道担当>
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Tel:022-795-6801
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理化学研究所 広報室
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科学技術振興機構 広報課
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