東京工業大学,科学技術振興機構(JST)

令和5年9月23日

東京工業大学
科学技術振興機構(JST)

トポロジカル絶縁体を触媒として
有機尿素類を室温で高収率合成

~量子の力の触媒への展開~

ポイント

東京工業大学 元素戦略MDX研究センターの細野 秀雄 栄誉教授、李 江 特任助教、多田 朋史 特定教授、北野 政明 教授らは、トポロジカル絶縁体であるBiSeを触媒として用いることで、一酸化炭素と酸素と有機アミンから、有機尿素類を室温で高い収率で合成することに成功した。有機尿素類は、尿素と異なり水にすぐに溶解せず、土壌中の微生物によって徐々に分解され、植物が吸収できる活性窒素に変わるので、窒素肥料として広く使われている尿素の欠点を補う性質があることが知られている。

本研究グループは、トポロジカル物質のユニークな物性である表面が極めて丈夫であることと、その起源となっている構成金属元素の大きなスピン軌道相互作用に注目した。そしてトポロジカル絶縁体としてよく知られているBiSeを選択し、そのナノ粒子を作製して、有機尿素類の合成反応の触媒として検討した。その結果、室温でほぼ100パーセントという高い収率で、有機尿素類が得られることを見いだした。酸素分子による酸化を伴う反応であるにもかかわらず、ナノ粒子の表面は安定で反応を繰り返し行っても活性の低下は認められなかった。この表面の丈夫さはトポロジカル物質の特性によるものだと考えられる。その反応メカニズムを検討したところ、Bi(ビスマス)とSe(セレン)の両方の元素が表面を構成する(015)面で反応が進行し、酸素分子がBiと結合して、酸化力の強い一重項状態が安定化されて、酸素原子に速やかに解離し、生成した原子状酸素がSeに結合したアミン分子から水素を引き抜き、生じたイミン中間体と一酸化炭素との反応を促進することが分かった。Biのスピン軌道相互作用を考慮しない計算では、酸素分子は通常の三重項状態のままで、酸素分子の解離は生じなかった。スピン軌道相互作用によって生じた局所的な磁場で酸素分子のスピン状態の変化が生じることが、反応のエネルギー障壁を大きく下げたと理解される。すなわち、トポロジカル物質のユニークな特徴とBiとSeというこの反応に有利な元素選択によって得られた成果と言える。

本グループは2012年に、電子がアニオンとして働くエレクトライド(電子化物)を用いて、温和な条件下でアンモニア合成が可能なことを報告した。今回の成果もこの延長線上にあり、量子物質の化学反応への展開のさらなる可能性を示唆している。

本研究成果は、科学技術振興機構(JST) 未来社会創造事業において得られたものであり、米科学誌「Science」の姉妹誌「Science Advances」に9月23日、オンライン公開される。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られた。

科学技術振興機構 未来社会創造事業 探索加速型

「地球規模課題である低炭素社会の実現」
(運営総括:魚崎浩平 北海道大学 名誉教授/物質・材料研究機構 名誉フェロー/科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー)
「ゲームチェンジングテクノロジー」による低炭素社会の実現」
「グリーンアンモニアおよび尿素とその誘導体合成のための特異電子系触媒の開発」
細野 秀雄 東京工業大学 栄誉教授
令和3年10月~令和8年3月

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Topological Insulator as an Efficient Catalyst for Oxidative Carbonylation of Amines”
DOI:10.1126/sciadv.adh9104

<お問い合わせ先>

(英文)“Topological Insulator Catalysts for High-Yield Room-Temperature Synthesis of Organoureas”

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