ポイント
- 相変化メモリーは、電源を切っても記憶した情報が消えない不揮発性メモリーの一種で、その動作原理である「熱的相変化を活用した電気抵抗スイッチング」はこれまでカルコゲナイド物質でのみ報告されていました。
- 今回、層状ニッケル酸化物Sr2.5Bi0.5NiO5を用いて、3つの結晶相について特異な熱的相変化を見いだし、酸化物で初となる熱的相変化を活用した電気抵抗スイッチングに成功しました。
- 相変化メモリー材料の探索領域を大幅に拡張できると同時に、多値記憶可能な相変化メモリーの実現に発展する可能性があります。
結晶とアモルファスの熱的相変化を活用した電気抵抗スイッチングは、GeSbTe合金などのカルコゲナイドで実証され、不揮発性相変化メモリーへの応用が期待されています。一方、酸化物では、金属絶縁体転移や超巨大磁気抵抗効果などの電気抵抗変調に関する膨大な研究があるにもかかわらず、意外にも、熱的相変化を活用した電気抵抗スイッチングは実現していませんでした。
東北大学の河底 秀幸 助教、松本 倖汰 博士、福村 知昭 教授は、筑波大学の西堀 英治 教授と共同で、層状ニッケル酸化物Sr2.5Bi0.5NiO5を用いて酸化物では初となる熱的相変化を活用した電気抵抗スイッチングに成功しました。
本研究では、(Sr1.5Bi0.5)O2岩塩層とSrNiO3ペロブスカイト層で構成される層状ニッケル酸化物Sr2.5Bi0.5NiO5を大気下でアニール(熱処理)し、岩塩層のSr/Bi配列の秩序化した結晶相(秩序相)が、Sr/Bi配列の無秩序化な結晶相(無秩序相)とダブルペロブスカイト構造Sr2BiNiO4.5(ダブルペロブスカイト相)への変化を介して、元の秩序相に戻る特異な熱的相変化を見いだしました。さらに、室温の電気抵抗については、秩序相に対して、無秩序相とダブルペロブスカイト相は、それぞれ102倍と109倍もの差があり、それぞれスイッチングできることも見いだしました。本研究で実現した、3つの結晶相の熱的相変化を活用した電気抵抗スイッチングは、酸化物の電気伝導の研究に新たな視点をもたらすと同時に、多値記憶可能な酸化物を用いた相変化メモリーへの発展が期待されます。
本研究成果は、2023年9月3日(現地時間)に科学誌「Advanced Science」オンライン版に掲載されました。
本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「原子・分子の自在配列と特性・機能」(研究総括:西原 寛)における研究課題「局所原子配列の熱的制御による酸化物相変化メモリ開発」(JPMJPR21A6)(研究代表者:河底 秀幸)などの支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(544KB)
<論文タイトル>
- “Thermally reentrant crystalline phase change in perovskite-derivative nickelate enabling reversible switching of room-temperature electrical resistivity”
- DOI:10.1002/advs.202304978
<お問い合わせ先>
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東北大学 大学院理学研究科 化学専攻 助教
Tel:022-795-7727
E-mail:hideyuki.kawasoko.b7tohoku.ac.jp
福村 知昭(フクムラ トモテル)
東北大学 大学院理学研究科 化学専攻 教授
Tel:022-795-7719
E-mail:tomoteru.fukumura.e4tohoku.ac.jp
西堀 英治(ニシボリ エイジ)
筑波大学 数理物質系物理学域/エネルギー物質科学研究センター 教授
Tel:029-853-6118
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