ポイント
- 細胞における機能未解明の情報伝達経路、G12シグナルを操作できる人工受容体を開発しました。
- この人工受容体を発現させた遺伝子改変マウスの解析から、G12シグナルは脂肪を燃やす働きを助けることが分かりました。
- 生体内に存在する受容体のうち、脂肪細胞に発現してG12シグナルを誘導する受容体が肥満治療薬の分子標的となる可能性を提唱しました。
- G12シグナル型人工受容体を用いた手法論を用いることで、さまざまな疾患に対する治療薬開発の効率化が期待されます。
現在市販されている医薬品のうち、最も多くの種類を占めるのがGたんぱく質共役型受容体(GPCR)と呼ばれる膜表面センサーたんぱく質(細胞外の分子情報を細胞内に伝える機能を持つ)に作用するタイプの薬です。これらGPCR作用薬のほとんどは、3種類のGたんぱく質シグナル伝達経路(Gs、Gi、Gq)のいずれかの機能を正常化することで薬効を発揮します。これらとは別に、G12と呼ばれるシグナル伝達経路が存在しますが、G12シグナルが薬効に寄与するかどうか不明でした。
東北大学 大学院薬学研究科の井上 飛鳥 教授らの研究グループは、G12シグナルを誘導できるデザイナーGPCRを開発しました。このデザイナーGPCRを脂肪細胞に発現する遺伝子組換えマウスを用いることで、通常はエネルギーを貯蓄するタイプの脂肪細胞(白色脂肪)からエネルギーを消費するタイプの脂肪細胞(褐色脂肪)への転換をG12シグナルが促進することが分かりました。
GPCRの中にはG12シグナルをオンにするタイプが存在します。脂肪細胞に発現するこれらGPCRの作動薬を開発することで、脂肪を「燃やす」肥満治療薬となることが期待されます。また、この遺伝子改変マウスを利用すると、デザイナーGPCRを別の調べたい組織に発現させることが可能であり、さまざまな疾患に対するG12シグナルの効果を検証することが可能となります。
本研究成果は、2023年8月21日に、科学雑誌「Signal Transduction and Targeted Therapy」に掲載されます。
本研究は、「文部科学省 科学研究費補助金(課題番号:JP21H04791)」、「科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR215T)」を始めとするさまざまな研究費支援を受けて実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.12MB)
<論文タイトル>
- “Chemogenetic activation of G12 signaling enhances adipose tissue browning”
- DOI:10.1038/s41392-023-01524-2
<お問い合わせ先>
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