理化学研究所,近畿大学,大阪大学,科学技術振興機構(JST)

令和5年8月11日

理化学研究所
近畿大学
大阪大学
科学技術振興機構(JST)

X染色体不活化の安定性は染色体の形が鍵だった

~半世紀以上の時を経て、不活性X染色体の複製の謎が明らかに~

理化学研究所(理研) 生命機能科学研究センター 発生エピジェネティクス研究チームのラウィン・プーンパーム 研究員、平谷 伊智朗 チームリーダー、近畿大学 農学部 生物機能科学科 動物分子遺伝学研究室の佐渡 敬 教授、大阪大学 大学院理学研究科 生物科学専攻 染色体構造機能学研究室の小布施 力史 教授らの共同研究グループは、哺乳類の雌の「不活性X染色体」の特徴的なDNA複製制御の解析から、その3次元構造に関する新しい特徴を見いだしました。

本研究成果は、1960年に見いだされた不活性X染色体のS期後期複製の意義に初めて言及し、染色体構造と遺伝子発現制御の関係を明らかにするもので、高度に凝縮したヘテロクロマチンと呼ばれる染色体構造が遺伝子発現を安定的に抑制する仕組みの理解につながると期待できます。

雌の細胞が持つ2本のX染色体のうち1本は胚発生の初期に不活性化され、不活性X染色体となって遺伝子発現が抑制されます。不活性X染色体の複製様式は他の染色体とは異なり、細胞周期のS期後期に複製されます。

今回、共同研究グループは、マウスES細胞の分化に伴う不活性X染色体の複製タイミングの変化と3次元構造の変化、不活性X染色体結合たんぱく質SmcHD1の役割を調べました。その結果、(1)不活性X染色体全域がS期後期に複製されるのは高度に凝縮した染色体構造をよく反映していること、(2)不活性X染色体は一見均一に凝縮しているように見えるが、染色体テリトリー内部に層構造が存在していること、(3)SmcHD1が不活性X染色体の表層領域の不活性化状態、適切な複製タイミング、および3次元構造の維持に必要であることなどを明らかにしました。

本研究は、科学雑誌「Nature Structural and Molecular Biology」オンライン版(8月10日付:日本時間8月11日)に掲載されます。

本研究は、理化学研究所 運営費交付金(生命機能科学研究)で実施し、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の研究領域「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出(研究総括:塩見 春彦)」の研究課題「潜在的不安定性から読み解くゲノム設計原理(研究者:平谷 伊智朗)JPMJCR20S5」、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 若手研究「Inactive-X switching: a novel checkpoint mechanism that sense chromosomal abnormalities?(研究代表者:ラウィン・プーンパーム)」、同 挑戦的研究(開拓)「1細胞全ゲノム解析の第二世代化と多次元化への挑戦(研究代表者:平谷 伊智朗)」、同 新学術領域研究(研究領域提案型)「細胞分化にともなうクロマチンポテンシャルの変化とその分子基盤(研究分担者:平谷 伊智朗)」による助成を受けて行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Replication dynamics identifies the folding principles of the inactive X chromosome”
DOI:10.1038/s41594-023-01052-1

<お問い合わせ先>

(英文)“Replication dynamics identifies the folding principles of the inactive X chromosome”

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