東海国立大学機構 岐阜大学,科学技術振興機構(JST)

令和5年7月22日

東海国立大学機構 岐阜大学
科学技術振興機構(JST)

交渉において心を読む能力を向上させるAIエージェントを開発

~多様な価値観を認め合う社会の実現に向けて~

東海国立大学機構 岐阜大学の佐藤 幹晃(博士前期課程2年)、寺田 和憲 教授らは南カリフォルニア大学のJonathan Gratch 教授との国際共同研究によって、交渉の成功に重要な心の状態の1つである相手の選好(価値観の相対化によって得られる順序関係)を読む能力を向上させるためのAIエージェントシステムを開発し、成人を対象としてその有効性を示しました。

多くの人にとって交渉は難易度の高い社会的相互作用です。そのため、例えば、給与交渉が収入を向上させる可能性を持つにもかかわらず、多くの人が給与交渉をせずに提示された給与をそのまま受け入れていることが知られています。また、交渉への消極性が経済的不平等や賃金停滞を助長する一因となっている可能性も指摘されており、交渉能力の向上は社会的課題であると言えます。一般的に、交渉ではWin-Winの関係になれる可能性がありますが、そのためには、複数ある論点に対する選好を相互に正確に見極め、資源の分配を最適化する必要があります。選好は直接観察できない心の状態であるため知ることは容易ではありません。人は日常的に、直接観察可能な相手の行動や表情から相手の選好を推論していますが、交渉においては、相手の選好が自分と一致しているという固定パイバイアスなどのさまざまな認知バイアスが選好の推論を困難にしており、認知バイアスの克服が課題となっていました。

本研究グループは、人の感情が個人の選好に基づいた状況評価の結果により表出されるという評価理論(appraisal theory)に基づいて設計した感情評価生成モデルをAIエージェントに搭載しました。評価プロセスを視覚的に明示し、ユーザに言語的フィードバックを与えながらシンプルな交渉タスクを行うことで、選好と表出感情の対応関係のモデルを用いて選好を推論する方法を学び、選好を読む能力を向上させるシステムを開発しました。また、成人187人を対象とした実験の結果、提案方法によって、選好を読む能力が向上することを確認しました。

本研究グループは、高ウェルビーイング社会の実現のためには、社会構成員が相互に相手の心を読むことによって他者の多様な価値を認め、資源やタスクの分配を数理的に最適化する能力(数理的社会情動能力)を持つことが重要だと考えています。今後は、本研究の成果を発展させ、道徳と算数をハイブリッドした教育プログラムをAIエージェントとのインタラクションに実装することで、コミュニケーションに課題を抱える子どもたちも含めた、社会の未来を担う多くの子どもたちが、相手の心情を理解し、多様な価値観を尊重し、複雑な人関関係にうまく対応する能力を獲得できるシステムを開発する予定です。

本研究成果は、日本時間2023年7月22日(土)に科学誌「IEEE Transactions on Affective Computing」のオンライン版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

科学技術振興機構(JST) 未来社会創造事業 探索加速型

「個人に最適化された社会の実現」
(運営総括:和賀 巌 NEC ソリューションイノベータ株式会社 シニアフェロー)
「他者とのインタラクションを支えるサービスの創出」
「数理的社会情動能力の発達を促進するAIエージェントシステムの開発」(JPMJMI22J3)
寺田 和憲 岐阜大学 教授
令和4年10月~令和7年3月

科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST

「信頼されるAIシステムを支える基盤技術」
(研究総括:相澤 彰子 情報・システム研究機構 国立情報学研究所 教授)
「納得感のある人間-AI協調意思決定を目指す信頼インタラクションデザインの基盤構築と社会浸透」(JPMJCR21D4)
山田 誠二 情報・システム研究機構 国立情報学研究所 教授
主たる共同研究者 寺田 和憲 岐阜大学 教授
令和3年10月~令和9年3月

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Teaching Reverse Appraisal to Improve Negotiation Skills”
DOI:10.1109/TAFFC.2023.3285931

<お問い合わせ先>

(英文)“Teaching Reverse Appraisal to Improve Negotiation Skills”

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