ポイント
- 相手の怖いという気持ちに共感する時に、「自分の恐怖」と「他者の恐怖」の両方の情報を合わせ持つ神経細胞が、「前頭前野」という脳領域に存在することが分かりました。
- マウスで恐怖の伝染を調べたこれまでの研究は、一部の行動のみに着目していました。本研究では、全ての行動を自動的に分類することで、これまで見逃されていた、逃げる行動に関わる脳領域を特定したほか、その領域で、自己と他者の情報を「同時に」合わせ持つニューロン群があることが新たに分かりました。
- 共感は日々の生活の中で、周りの人と良好な関係を築く上で重要な役割を果たしています。将来、本研究を元に、共感能力に困難を抱えている自閉スペクトラム症への理解が進むことが期待されます。
東京大学 定量生命科学研究所の奥山 輝大 准教授、同大学 大学院医学系研究科の黄 子彦 大学院生、ジョン ミョン 大学院生らのグループは、怖いという気持ちを「共感」する時の脳の働きを、マウスを使って解明しました。ヒトもマウスも、他者が怖いと感じている様子を見ることで、その感情が移ったかのように、自分自身も怖いと感じるようになることが知られています。この時、脳内で「他者の感情」と「自分の感情」がどのように情報処理されるかを調べたところ、前頭前野という脳領域に「自分と他者の感情の情報を、同時に合わせ持って表現する」神経細胞が存在することを発見しました。将来、この研究を元に、共感性に困難を抱える自閉スペクトラム症への理解が進むことが期待されます。
本研究成果は、2023年7月3日に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 「創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR2143)」「さきがけ(課題番号:JPMJPR1781)」、日本学術振興会(JSPS) 「科学研究費助成事業(課題番号:JP18H02544、JP20K21459、JP21H02593、JP21H05140)」「特別研究員奨励費(課題番号:JP22J21085、JP22J11822、JP20J01468、JP19J00911)」、日本医療研究開発機構(AMED) 「脳とこころの研究推進プログラム(課題番号:JP21wm0525018)」、内藤記念科学振興財団、セコム科学技術振興財団の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(258KB)
<論文タイトル>
- “Ventromedial prefrontal neurons represent self-states shaped by vicarious fear in male mice”
- DOI:10.1038/s41467-023-39081-5
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
奥山 輝大(オクヤマ テルヒロ)
東京大学 定量生命科学研究所附属高度細胞多様性研究センター
行動神経科学研究分野 准教授
Tel:03-5841-2297
E-mail:okuyamaiqb.u-tokyo.ac.jp
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<JST事業に関すること>
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〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
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E-mail:souhatsu-inquiryjst.go.jp
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<報道担当>
東京大学 定量生命科学研究所 総務チーム
Tel:03-5841-7813
E-mail:soumuiqb.u-tokyo.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
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