ポイント
- たんぱく質が活性を示す上で必要不可欠な3次元構造を形成するフォールディングを、高い効率で促進する初めての人工ジスルフィド分子pMePySSを開発しました
- pMePySSは酵素に準ずる機能を保有し、たんぱく質の立体構造形成に重要となるジスルフィド結合の形成を促進することが分かりました。また添加量も、たんぱく質のジスルフィド結合に対して、1当量(理論上要する最小量)で十分な効果を発揮することを確かめました。
- 構造異常たんぱく質が引き起こすパーキンソン病やアルツハイマー病、2型糖尿病などのミスフォールディング病に対し、酵素代替による新たな治療薬の開発だけでなく、インスリンや抗体医薬などのたんぱく質製剤の合成効率向上に貢献することが期待されます。
東京農工大学 大学院工学府の岡田 隼輔(博士後期課程修了)、松本 陽佑(博士前期課程修了)、大学院工学研究院の村岡 貴博 教授、東北大学 学際科学フロンティア研究所の奥村 正樹 准教授、東海大学 理学部の高橋 莉奏(博士前期課程学生)、荒井 堅太 講師、関西学院大学 理学部の金村 進吾 助教の研究グループは、変性状態のたんぱく質に対して、1当量添加でフォールディングを効率的に進める合成化合物pMePySSの開発に成功しました。ピリジニウム基とチオール/ジスルフィド基の連結構造が、ジスルフィド結合形成を伴う酸化的たんぱく質フォールディングを促進する効果的な分子構造であることを見いだしました。
化合物pMePySSが、還元変性たんぱく質(ウシ膵臓(すいぞう)トリプシンインヒビター、BPTI)に対して、ジスルフィド結合当り1当量添加で最大74パーセントの収率で天然構造体を与えました。これは、従来の人工フォールディング促進化合物を過剰量用いた場合と比べても同等の収率であり、pMePySSが従来化合物と比べて、添加量基準で10倍以上高い効率でフォールディングを進めることが示されました。pMePySSは、インスリンのフォールディングに対しても1当量添加で促進効果を示しました。酸化型グルタチオンGSSGを用いる従来法と比べて、pMePySSは、4.2倍高い効率でインスリン天然構造体の形成を進めました。
この成果は、構造異常たんぱく質が引き起こすパーキンソン病やアルツハイマー病、2型糖尿病などのミスフォールディング病に対する治療薬の開発や、インスリンや抗体医薬などのたんぱく質製剤の合成効率の向上に貢献すると期待されます。
本研究成果は2023年6月30日(金)、英国化学会誌「Chemical Science」のオンライン版で公開されます。
本成果は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業 FOREST(課題番号:JPMJFR2122、研究代表者:村岡 貴博;課題番号:JPMJFR201F、研究代表者:奥村 正樹)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST(課題番号:JPMJCR19S4、研究代表者:野地 博行)、日本学術振興会 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(B)「遅延制御超分子化学」(課題番号:JP21H05096、研究代表者:村岡 貴博;課題番号:JP21H05095、研究代表者:奥村 正樹)、武田科学振興財団(村岡 貴博、奥村 正樹)などの支援を受けて得られました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(905KB)
<論文タイトル>
- “Semi-enzymatic acceleration of oxidative protein folding by N-methylated heteroaromatic thiols”
- DOI:10.1039/D3SC01540H
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
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東京農工大学 大学院工学研究院 教授
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東北大学 学際科学フロンティア研究所 准教授
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