ポイント
- 非モデル生物であるクルマエビ類は細胞分類に課題があり、どの血球細胞集団がウイルスによって影響を受けるのか分からなかった。
- 網羅的シングルセルmRNA解析でウイルス感染時に変動する細胞集団および遺伝子を同定した。
- ウイルス感染で割合が減少する血球細胞集団が判明したため、クルマエビ類養殖で問題となっているウイルス病の克服につながると期待される。
東京海洋大学 学術研究院の小祝 敬一郎 助教らは、マイクロ流体デバイスを用いた網羅的シングルセルmRNA解析技術により、ウイルス感染によって影響を受ける細胞集団および遺伝子を同定することに成功しました。
クルマエビ類の養殖現場では、ウイルス病による被害が問題になっています。そこで、クルマエビがどのようにウイルスと戦っているのか、なぜウイルス感染により死んでしまうかを明らかにする必要があります。しかし、クルマエビ類の免疫をつかさどる血球細胞の分類には課題があり、ウイルスによってどの細胞が影響を受けているのか、また、なぜウイルスに対抗できなくなってしまうのか分かりませんでした。
本研究グループは、ウイルスをクルマエビに人為感染させ、体液中に存在する血球細胞を網羅的シングルセルmRNA解析に供し、健常時の個体と比較することで、ウイルスの感染が抗菌ペプチド産生細胞集団の割合を減少させることを世界で初めて明らかにしました。また、ウイルス感染の有無にかかわらずクルマエビの血球細胞を客観的に分類可能とするマーカー遺伝子を複数同定し、その発現パターンを顕微鏡観察することに成功しました。
本成果により、ウイルス感染時に割合が減少する血球細胞集団が判明したため、この集団を増やす、もしくは、減らさないようにする飼育法や飼料添加物を開発することで、クルマエビ類養殖で問題となっているウイルス病の克服につながると期待されます。
本研究成果は、2023年6月16日(英国時間)にMarine Biotechnology誌「scRNA-seq analysis of hemocytes of penaeid shrimp under virus infection」のオンライン版で公開されます。
本研究は、科学技術振興機構 ACT-X(JPMJAX21B5)、科学技術振興機構 国際協力機構 SATREPSプロジェクト(JPMJSA1806)、日本学術振興会 若手研究(20K15603)および基盤研究(A)(22H00379)の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(430KB)
<論文タイトル>
- “scRNA-seq analysis of hemocytes of penaeid shrimp under virus infection”
- DOI:10.1007/s10126-023-10221-8
<お問い合わせ先>
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小祝 敬一郎(コイワイ ケイイチロウ)
東京海洋大学 学術研究院 助教
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